Q&A経営相談室
【人事戦略】
製造業務への人材派遣を利用するには
 
Q:
 労働者派遣法が改正され、製造業務の派遣が解禁されると聞きました。当社は電子機器の部品等を製造していて、法施行以後には従来の業務請負と人材派遣を使い分ける必要が出てきます。法律の中身と派遣先としての留意点を教えてください。(電子部品メーカー)
 
<回答者> 月刊人材ビジネス 編集主幹 三浦和夫

A:
 労働者派遣法は2003年6月の衆参両院で可決され、2004年3月にも施行される予定です。今回の改正措置は99年に次いで大きな改正となりました。
 目玉はいくつかあります。その最大のポイントは、製造業務の派遣解禁です。1986年の施行以来の懸案事項で、前回の改正の際に継続審議の対象となり、解禁は時間の問題となっていました。
 では、その製造派遣についての法規制を簡単に説明し、ご質問の派遣活用の留意点について言及します。
 製造業務といっても多岐にわたりますが、改正法では次のように説明しています。すなわち「物の製造とは、物の溶融、鋳造、加工、組み立て、洗浄、塗装、運搬等物を製造する過程における作業」とされています。これらは代表的な業務を例示したもので、「等」の中にはこの説明に含まれていない業務もあるでしょう。実態に照らし合わせて、製造過程の作業と認定されることが必要です。
 これらの業務は製造という括りの中で表現され、今回の改正法で解禁されたわけです。ただし、規制があります。
 1つは、派遣期間の制限は1年間とされました。2つ目は、製造派遣では一般労働者派遣事業とは別個に専門の派遣先責任者、派遣元責任者を選定して契約を交わさなければなりません。3番目は、派遣先はもとより派遣元責任者側にも安全衛生の職務が課せられました。最後の第4は、派遣と請負の区分基準(86年4月の労働省告示37号)に照らし合わせ、双方の区別を明確化する上で行政指導を行うこととなりました。

運用上の3つの留意点

 以上の法令に従えば、運用上の留意点として次のことがいえるでしょう。
 第1は、派遣期間の制限が1年ということは、製造工程業務のうち臨時的・一時的な労働需要に対して派遣は有効に機能しますが、半永続的に流れている工程については請負の形態を、先の区分基準にしたがって整えなければなりません。しかも法規制があるため、工場内業務における派遣と請負の区分を従来に増して明確化する必要が出てきます。
 第2は、改正法は、製造現場に派遣される派遣労働者を安全衛生上で保護する必要から、派遣先と派遣元の各責任者の連携プレーを求めています。したがって、安全衛生に関わる知識とノウハウ、派遣労働者に対する教育研修を行っている製造派遣元でなければ連携は困難であり、派遣先としては取引の条件にそれらを加える必要があるでしょう。
 第3は、しかしながら、派遣先の製造現場で発生した労災事故の管理監督責任は派遣先が負うことになることを確認しなければなりません。

 厚生労働省の話によると、法施行以後の指導・監督は各製造現場を管轄するハローワークと労働基準監督署の担当官の混成チームによって行われる見込みです。今改正法の可決に際して参院厚生労働委員会では「製造派遣を解禁するに当たって、偽装請負に厳しいチェックをする必要がある」との付帯決議を採択しているためです。
 最近、埼玉県の製造現場で金型鋳造作業に従事していた請負労働者が労災死しました。地元の監督署が検証した結果、請負は偽装であり、実態は労働者派遣法にいう派遣であることが判明しました。その結果、事故の監督責任は派遣先の製造会社にあり、偽装請負企業も労働者派遣法違反に問われ、ともに厳しい改善命令を受けました。
 改正労働者派遣法は2004年3月にも施行される予定ですが、法施行以後にはそうしたことのないように、業務を発注する製造会社も請ける会社も十分に気をつけなければなりません。

提供:株式会社TKC(2003年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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