Q&A経営相談室
【M&A】
「会社譲渡」を成功に導く3つのポイント
 
Q:
 後継者がいないため、会社を譲渡したいと考えています。自社価値のつかみ方、交渉方法等について教えてください。(機械部品製造業)
 
<回答者> 株式会社レコフ 執行役員・営業開発部長 梅本建紀

A:
 ご質問は、会社譲渡を行うに際しての技術的な点をお尋ねですので、M&Aにおける交渉上のポイントから先にご説明します。
 第1のポイントは、秘密保持の徹底です。社内外への情報漏れは、従業員の不安感・モチベーションの低下や顧客に対する競合他社の営業攻勢など、経営上の大きな損害につながる恐れがあります。したがって、交渉相手との秘密保持契約の締結や社内の情報管理体制の徹底といった措置が不可欠です。
 第2が交渉相手企業の選定。選定に当たっては、安心して従業員を託せるか、従業員が納得するかどうか等を最初に検討する例が多いようです。そして、円滑な事業承継や譲渡後の事業成長のために、交渉相手企業が事業価値の源泉をどう評価しているかを確認します。これは相手方の自社価値(株式の譲渡価額、営業譲渡の対価等)への評価とも密接に関係しています。事業をよく理解し、その価値の源泉を高く評価する相手方企業ほど、企業価値を高く評価する傾向があるからです。
 第3が交渉の手順。M&Aは“法律の束”といってもよく、民商法等の法務面の対応が必要であるとともに、資料開示、企業価値の評価額、従業員の引き継ぎ、基本条件の提示、合意内容の文書化、契約書の作成等について、適切な手順で進めることが肝要です。

総合的視点で合意点を見出す

 さて、もう一つのご質問である「自社価値のつかみ方」ですが、価値評価は一物百価の世界であり、残念ながら万能な方法がないのが実情です。自社を取り巻く環境や、相手企業が事業をどのように理解し、その価値の源泉についてどう評価するかによって大きく左右されるからです。
 非上場会社の株価評価の方法としては相続税財産評価方式に基づく「(時価)純資産方式」「類似業種比準方式」「配当還元方式」等があります。ただし、これを経営権の譲渡である「会社の譲渡」の対価計算に際して採用することが妥当かどうかは、状況に応じてよく検討する必要があります。
 非上場会社のM&Aにおける価値評価方法には、業界に特有の営業権の概念があればそれも加味し資産を全て時価に洗い直す時価純資産方式や、対象企業が将来生み出すと想定されるキャッシュフローをベースに企業価値を算定する「DCF方式」などがあります。
 実際のM&Aでは、評価の目的と交渉の状況に基づいて双方が納得する複数の評価方法を選択し、それらの評価結果を総合的に勘案することで、お互いの合意点を見出しています。
 「有価証券」「ゴルフ会員権」「棚卸資産」「売掛金」等に関する評価損益、「固定資産」の減価償却不足は、企業価値の調整項目となります。また、製造業の場合は、土壌汚染に関する調査を実施し、その結果を評価に反映させることになるので注意が必要です。
 中小のオーナー企業に特有の企業評価上のポイントとしては、「取締役の報酬」があります。オーナーの報酬水準が高めに設定されている場合やオーナーの家族が取締役をつとめている場合、M&A後にはその分の取締役の報酬が減額されることから、将来利益のプラス要因として交渉する事例もあります。
 会社譲渡の秘密を保持しながら適切な交渉相手を見つけ出すことは非常に難しく、また納得のいく交渉を適切な手順で行い、状況に適した企業価値を評価するためにも、専門家に相談されることをお勧めします。

提供:株式会社TKC(2003年7月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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