Q&A経営相談室
【福利厚生】
改正「育児・介護休業法」の留意すべきポイント
 
Q:
 一昨年から昨年にかけて改正された「育児・介護休業法」について、企業経営者が留意すべきポイントを教えてください。(流通業)
 
<回答者> 社会保険労務士 倉本小百合

A:
 主な改正点として5つありますので、まずは列挙してみます。

(1)

いままで育児・介護休業の申し出や取得したことを理由として解雇することのみ禁止でしたが、それが解雇のみならず降格、自宅待機、減給、パートなどへの契約変更等の不利益な取り扱いがすべて禁止されました。

(2)

平成11年4月1日から女性の時間外労働・深夜業の規制が撤廃されたのと同時に設けられた、育児・介護を行う女性の時間外労働について一定制限を設ける措置が平成14年3月で終了しました。そして新たに平成14年4月1日からは、小学校就学前の子を養育あるいは要介護状態にある対象家族を介護する男女労働者(1年以上継続雇用、共働きなどの一定範囲)は、請求があれば1月以上1年以内の期間に、1月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはならなくなりました。

(3)

勤務時間の短縮等の措置義務(短時間勤務、フレックスタイム制、始業・終業の繰り上げ・繰り下げ、所定外労働の免除、託児施設の設置運営等)の対象となる子についても、1歳未満から3歳未満に拡大され、3歳から小学校就学前の子についても努力義務となりました。

(4)

養育・介護を行っている労働者に対して、住居の移転などを伴う就業場所の変更(配置の変更)について配慮義務が新設されました。

(5)

また、今回の改正の目玉として、小学校就学前の子が病気や怪我をした時に年次有給休暇とは別に休暇を与える「看護休暇制度」(5日が目安。無給・有給不問、専業主婦・主夫がいてもOK、パート社員も対象)導入の努力義務が新設されました。

 ほかにも、各企業において前記のような仕事と家庭の両立や職場における固定的な性的役割分担意識の解消のために取り組む、「職業家庭両立推進者」の選任の努力義務も新設されています。

両立支援制度が人を育てる

 以上、経営者にとって、短期的には面倒でデメリットを感じる改正にも思えますが、子育てや介護等をする労働者を尊重・保護し、その貴重な労働力を維持することは、長い目で見れば企業にとってプラスになります。
 厚生労働省の調査によると、いまだ働く女性の7割は第一子出産後仕事を辞めているという実態があります。また、育児休暇を取得する男性は0.4%。男女とも原因として職場の雰囲気と代替要因がいないことを主な理由に挙げています。せっかく仕事を覚え、戦力として充実しようという矢先に、もしこのようなつまらないことで退職を余儀なくされるとすれば、それは本人のみならず企業にとっても損失でしょう。
 さらに、働き続けることができない女性、育児に携われない男性、これらは日本の社会的問題である前に、人としてのライフプランの選択が狭められている不幸な事態です。
 どの企業にとっても人は最大の財産のはず。自社において安心して働ける環境をつくらなければ、優秀な若手を育てることもままならないでしょう。とくに(3)の小学校就学前の子対象の勤務時間の短縮や(5)の「看護休暇制度」のような仕事と家庭の両立支援制度は、企業が優秀な人材を獲得・維持する武器になり得るものです。整備に動いてみてはいかがでしょうか。この制度が会社の看板になり、場合によっては、前記のような障害によって他社を退職せざるを得なかった優秀な労働力を獲得できるかもしれません。そしてひいては社内の人間関係においても、お互いさまの助け合いの精神がはぐぐまれ、全社的な士気向上が期待できます。ちなみに、この両立支援制度を導入した企業には国から奨励金(中小企業は40万円)も用意されていますので、活用することをお薦めします。

提供:株式会社TKC(2003年2月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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