Q&A経営相談室
【事業承継】
後継ぎ息子の修業は“使いっぱしり”が一番
 
Q:
 長い間取引のある中小メーカーの後継ぎ息子を3年ほど預かることになりました。「この時代に儲かっている会社のノウハウを学んで来い」ということのようです。教えるポイントを助言してください。(機械製造卸売業)
 
<回答者> 富士環境システム株式会社 社長 経営アドバイザー 前田智幸

A:
 経営の基本は「凡事徹底」です。一番の基本は清掃と整理整頓です。誰でもできることですが、継続して徹底するとなると、どれだけできているでしょうか。

清掃と整理整頓

 清掃の目的はモノや道具を長持ちさせると同時にムダを見つけ、それを取り除くことにあります。紙1枚ネジ1本の値段は3円5円かもしれません。しかし、それをムダにしていたのでは利益は残りません。儲かっている会社でも税金を納めた後に残るお金はせいぜい2%ほどです。1万円の節減と50万円の売上とは同じ重さなのです。
 また、不要になったモノを処分し、必要なモノを、必要な時にすぐに取り出せるように整理整頓することも大切です。誰もが使いやすくするにはインデックスにも工夫が必要です。
 実は、モノを整理することは頭の中を整理することにつながります。経営判断の基本は、複雑な事象をいくつかの項目に分けてシンプルに整理することです。それができればどんな困難な場面に直面しても、おのずと解決策を見つけ出すことができます。
 掃除や整理整頓が重要ではない。パートや新入社員の仕事だと考えたら大間違いです。店や工場が薄汚れていては見えないところでお金がタレ流しになります。モノを大切にできない会社は、時間の使い方にも無駄が多くあります。だから、薄汚れている会社では利益が出せないのです。
 売上を簡単に増やせる時代ではありません。同じ売上の中で利益を出すには、徹底してムダを省くことです。その判断基準となるのは「これを省くことで顧客が不利益をこうむるか」という一項目です。それ以外はありません。どこかを責任をもって担当させます。そうすると、3年間で凡事徹底が自然に身につきます。

観察力を養う

 取引先の大切な息子を預かるのだからといって企画、広告や仕入を担当させてはなりません。本人がいくら優秀であろうと同じです。
 現場を知らない企画マンは、理論で相手に勝とうとします。広告担当は少なくないお金を使うことができますが、稼ぐことを経験していない者に、先に使うことを覚えさせてはなりません。また、仕入部門には、多くの取引先が売り込みにきて頭を下げます。頭を下げる大変さを覚える前に、頭を下げさす快感を覚えれば、自分は大きなことができるのではないかと錯覚を起こすことにつながり、それがもとでやがて大きなつまずきを起こすことがあります。
 修業期間の仕事は“使いっぱしり”が一番です。ときには、女子社員の言いつけで文房具を買いに走ることもあるでしょう。配達の助手として手伝うこともあるでしょう。また、ときには営業マンにくっついてお得意先を回ることもあるでしょう。さらには社長の代理として得意先の社長に伝言をもっていくこともあるでしょう。
 女子事務員を手伝うことで意外な苦労を知ることができます。配達助手や同行営業の道すがら会社の最前線を支える社員の苦労を聞かせてもらうことができます。社長の代理は多くの経営ノウハウを勉強すると同時に人脈を広げるのに役立ちます。ラクそうに見える仕事が精神的にキツかったり、ハードに見える仕事が担当者の働き甲斐だったりします。経営者にとって最も必要なのは、最前線で何が起きているのかをそこにいる社員と同じ目線で観察し考える技術です。
 3年間の修業は凡事徹底の大切さと、会社の最前線を見る眼を養うことに集中させることが必要です。

提供:株式会社TKC(2003年1月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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