Q&A経営相談室
【組織管理】
反目しあう製造・営業両部門をひとつにまとめるには…
 
Q:
 売上が上がらずに、営業部門と製造部門が反目し合っています。会議の席では互いを責めるばかりで、建設的な意見が出てきません。社内をまとめる有効な方法はないでしょうか。(電子機器製造業)
 
<回答者> ワンネス教育研究所 代表  林 紀光

A:
 おおよその人間は、不都合なことが起きると環境や相手のせいにしてしまいがちです。自分の非は決して認めようとしません。これを「自己(組織)防衛規制」といいます。たしかに、都合の悪いことは誰かのせいにすると気が軽くなるものです。しかし、これでは肝心の業績不振という問題の解決には少しもつながりません。
 現在、コンピュータの付属機器でトップシェアを得るようになったE社でも、かつてはご質問と全く同じ問題を抱えていました。会議で議論されるのはいつも相手のせいにすることばかり。製品開発部門は「こんなにいいモノが売れないのは営業がだらしないからだ」と主張し、対して営業は「どうしてウチの製品開発は売れないモノばかり造るのだ。まったくマーケットを知らない」と反論するような状態だったのです。製品開発部門の拠点は長野、営業部門は東京と地理的な遠さが心理的な距離となっていたことも、相互が不信感を募らせることに拍車をかけていました。E社は、この状況をどのように脱したのでしょうか。以下、事例を通して紹介していきましょう。

人間心理を活用した合宿

 こうしたケースへの対処法は、これまで幾人もの組織開発の専門家が提言してきています。その多くは「部門と部門の問題ではなく全社を巻き込んだ総合的な業務改革や風土改善が必要だ」というものでした。ただ、この手法では時間がかかり過ぎ、変化の激しい業界にあるE社には適切ではありません。短時間で両部門を融合しなければならなかったのです。そこでE社がとったのが「製・販両部門が一緒に3日間の合宿を行う」という方法でした。これを定期的に何度も行ったのです。
 もちろん「同じ釜の飯を食う」という日本的な発想で一時的な一体感を醸成しただけでは、合宿の効果はしれています。人間心理を理解した上で運営しないといけません。E社の場合では、まず自分たちの部門の正当性を主張することから始めさせました。当然、この段階では反目しあいます。ところが回数を重ねるうちに、相手を理解しようという空気が生じてきたのです。ポイントは、自分の正当性を主張させたことでした。人間は、話し手の価値観で一方的に自分を判断、評価されると強い反発を感じます。これを「ユー(YOU)メッセージ」と言います。逆に話し手が自身の感情や立場を話した場合、受け手は理解しようというスタンスをとります。これを「アイ(I)メッセージ」と言います。つまりE社では、相手を批判するのではなく、相互に自分の立場を説明するというアイメッセージを繰り返し行ったことで、意見や価値観の違いはあっても、結局目的は一緒であることを相互に理解できたわけです。
 この段階に至り、合宿内容は次のステップに進みます。「顧客がすべてを決定する」という概念が提案されたのです。「顧客が決める」とは「売れるモノ、売れないモノ」は買い手が決めるということです。たとえば「価格」のとらえ方では、「15年前にロスで買ったマクドナルドのハンバーガーは1個50円だった。当時日本では200円。海外旅行ブームで毎年数百万人の日本人が海外に行く。多くの消費者がこうした価格の高さに不満を持つのは当たり前で、それが昨今の低価格傾向を作り出している」といった発言がされました。こうした議論の過程で「いいモノを作れば必ず売れる」といった製品開発部門の幻想は完全に破壊され、また製品ブランドに甘えていた営業部門の依存体質も破壊されました。過去の成功体験を参加者自らが破壊していったのです。
 もし両部門が反目しあったままだったら、E社はどうなっていたでしょう。お互い何を言っても理解を得ることができないと感じると、人は相手に対して無関心を決め込むようになります。そうなったらこの会社は、今頃終焉を迎えていたにちがいありません。反目しあっていた当事者同士が合宿を通して「顧客がすべてを決定する」というキーワードを発見し、それを共通理解としたことでE社は救われたのです。

提供:株式会社TKC(2002年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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