Q&A経営相談室
【福利厚生】
株式公開を視野に入れた「従業員持株制度」の作り方
 
Q:
 数年後に株式公開を計画しており、その一環として「従業員持株制度」の導入を考えています。どのような手順で設立すればいいのか教えてください。(外食産業)
 
<回答者> 日興コーディアル証券 コーポレート・サービス部課長 鈴木一弘

A:
 
まず、従業員持株制度とは「従業員が自社の株式の取得を目的として持株会を組織し、その運営を行うもの」です。その主な狙いは、従業員の経営参画意識の高揚と財産形成などです。会社側は福利厚生の一環として位置づけています。
 東証の調べによれば、上場企業のおよそ95%が従業員持株制度を導入しており、その加入率は約45%です。未上場会社の場合は、正確な調査データがないのでわかりませんが、ここ直近に上場した会社をみるとその大半が上場前から導入、加入率は60%くらいです。ご質問者のように、将来の株式公開をにらんで導入するケースがほとんどです。
 それでは、どのような手順で導入すればいいのかを説明します。従業員持株会とは、法的には民法667条第1項に基づく「任意組合」です。構成員は社員、執行機関は理事会です。理事会は理事長、理事、監事からなり、メンバーは4、5人。その運営は総務部もしくは人事部が担当するのが一般的です。したがって、会社側はまず「任意組合として従業員持株会を設立すること」を説明し、加入者を募ります。
 次に、毎月の拠出金は給与天引きで行われるため労働基準法24条に基づく協定(天引きに関する)を結びます。
拠出金は通常1口1000円で、30口を上限とするケースが多いようです。見直しの時期(口数の変更)や、ボーナス時は従来の3倍など、運用ルールを決めます。
 また、奨励金をどれくらいにするかも取り決めます。この奨励金というのは会社側の補助金です。仮に5%を奨励金とすれば、毎月1万円拠出する場合は、500円を会社が上乗せして1万500円ずつ積み立てていくというものです。この部分が福利厚生に当たり、損金として落とすことができます。何%なら福利厚生の範囲内かといえば、東京弁護士会の「利益供与ガイドライン」によれば、「3ないし20%程度」としています。福井地裁の判例では「5%」という事例があります。

資本政策に則って持ち株会を設立

 しかし、最も重要なことは、株式公開に向けての「資本政策」に則りながら従業員持株会を設立する、ということです。仮に4年後に上場する計画であれば、その間に2、3回第三者割当増資による新株発行を行うのがオーソドックスです。そのときに、従業員持株会にプールされていた拠出金で新株を購入するわけです。が、ここで注意しなければならないのは、拠出金全額を増資に充てるのではなく、6〜7割程度にすることです。例えば拠出金が1000万円ならば、600〜700万円を購入資金に充てます。その理由は、退会される人の株式を持株会が買い取るのが、未上場会社のやり方だからです。株式が社外に流出するのを防ぐためです。
 要するに給与天引きで拠出金を毎月ためていき、ある程度プールされたところで1回目の新株を購入し、また積み立てていって2回目、3回目と購入するのが理想です。従業員は、ムリなく株式を購入することができます。ところが、実際には「急(1、2ヵ月後)に増資することを決めてから持株会を設立する」ケースが往々にしてあります。これだと、貯金を取り崩すか、親戚等からお金を借りるなど、資金面で従業員に負荷をかけます。
 会社側は増資による資金で、機械の購入、営業所の開設など、前向きな投資を行います。それによって業績をあげれば、上場後の株価を高くすることができます。
 通常、オペレーティングに関しては、証券会社と「事務委託契約」を結びます。その中身は、1.月々の拠出状況の計算、2.会員別の「持ち分明細表」の作成などで、コストは年間一人当たり600円。このコストも奨励金と同様、損金として落とすことができます。
(インタビュー・構成/本誌・岩崎敏夫)

提供:株式会社TKC(2002年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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