Q&A経営相談室
【ミッション】
経営理念を社内に浸透させるには…
 
Q:
 経営理念を社員に徹底させることができません。どうすれば社内に浸透するのか、その方法を教えてください。 (機械メーカー)
 
<回答者> 産能大学経営学部教授 宮田矢八郎

A:
 
こうした問題は3つの角度からの検討が必要です。(1)トップの思想を社内に定着させるには時間がかかります。必要時間を考慮に入れているか。(2)理念が具体的であるかの反省が必要です。具体性がなければ社員への伝承は難しい。(3)効果的な伝承のためには仕掛けが必要です。仕掛けの工夫がなされているか――時間、反省、仕掛けの3点です。
 まず時間について。理念の伝承、浸透とは教育そのものです。教育には時間がかかります。「掃除哲学」で有名なイエローハットの創業者、鍵山秀三郎氏は率先垂範の掃除を10年間1人でやったと語っています。「自分の心の修行」と思ってやり続けて、10年経過した頃からぼつぼつと参加者が現われはじめるといった状況でした。そうした観点をまず検討してください。
 次に理念の具体性への反省です。考えられた理念は貴重ですが、抽象的になりがちです。わかりやすく、インパクトを持ったものであるためには、具体的で、感情・感動を伴うものでなければなりません。他人が感動するためにはまず自分が感動しなければなりません。自分自身を激しく感動させ、やる気を起こさせるような経営理念が示されているかということです。
 一般に、経営の世界で動機づけと言えば、従業員を対象としたものですが、最も動機づけられなければならないのは経営者です。経営者のやる気のレベルが会社のやる気の頂点だからです。
ここに経営者自身の永遠の課題があります。
 参考までに、「理念形成のステップ」を述べますので検討してください。(1)真の経営理念は人間としての問題意識〜求道心からスタートする。(2)人間としての成熟が基本(理念は熟してゆく)。(3)真の経営理念は血と汗と涙と脂がこびりついた具体的なものである。(4)個人の問題意識と社会との接点に経営理念が生じる。(5)往々にして事件が理念を結晶化させる。(6)理念が会社を外的危機から救うということがある。(7)事業と経営は喜びであれ。すなわち、自己実現のレベルであれ。
 コメントを加えれば、(1)本物とはそういうことです。そして、理念が複雑多岐な人間性の深淵から生じているだけに、本物は真似ができないという性格があります。(2)初めから完成した経営理念があるというのはむしろ稀です。人間も成長する、理念も成長する。(3)したがって、生きた経営理念はこれを生み出した人物と逸話をほうふつとさせるものです。(4)経営理念は自らの事業の社会的役割の再確認というプロセスに生じます。(5)普通、経営者の意識や思想は必ずしも明瞭とは限らず、「事件」とも言うべき出来事が理念を明瞭にし、結晶化させます。(6)「情けは人のためならず」です。(7)自己実現とは自分の内側にある能力や才能、疑問や問題意識などが外側に表現されることです。それは生命の本質的な営みで、それ自体が喜びです。成功している事業の本質は自己実現、言い換えれば創造性の発揮に原点を有しています。成功する事業と経営は喜びの結果です。

社内浸透には仕掛けが必要

 さて、最後に経営理念が効果的に浸透し、伝承されていくには、仕掛けが必要です。理念と仕掛けが結びついた最近の好例はミスミでしょう。「購買代理店」(販売代理店ではない)という理念を実現するために、固定的な部課制を採用せず、チーム制を採用。社内コンペでチームを組織化し、年俸制を基本として業績によって給料を増減させる仕組みになっています。
 ポストイットで有名なスリーエムには30%ルールと15%ルールがあります。各部門の売上の30%を5年以内に開発された新製品で占めることとし、そのために従業員の勤務時間の15%を開発のために自由に使ってよいという社内ルールを定めています。創造的であれという理念をこうした仕掛けで担保しているわけです。

提供:株式会社TKC(2002年9月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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