Q&A経営相談室
【労務管理】
職場でのセクシュアルハラスメントに経営者の責任は問われるか
 
Q:
 職場でのセクハラに使用者責任は問われるのでしょうか?(アパレルメーカー)
 
<回答者> 社会保険労務士 山本礼子

A:
 まず男女雇用機会均等法(以下「均等法」)で規定されているセクシュアル・ハラスメント(以下セクハラ)とは、どのような行為が該当するのか確認しておきましょう。
 均等法では、セクハラとは「相手方の意に反する不快な性的言動」とされており、相手方とは女性に限定されています。具体的なセクハラ行為としては、強制わいせつ行為等犯罪の対象となる性的言動や、雇用上の上下関係を利用した性関係の強要、必要なく身体にさわる、わいせつな図画を配布するなど社会通念に反し、かつ違法不当な性的言動などが挙げられます。
 さて、ご質問の件ですが、結論から申し上げますと、使用者責任を問われることになります。
 均等法21条では、「事業主は、職場において行われる性的な言動に起因して、その雇用する女性労働者が労働条件につき不利益を受け、又は当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない」という配慮義務が規定されているのです。

民事上の責任も問われる

 また、均等法違反とは別に裁判では、民事上の「職場環境整備義務」と「配慮義務」について責任が問われることもあります。使用者は、セクハラ行為が職場内に発生している場合には是正する義務を負っており、被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合には、「事業ノ執行ニ付キ第3者に損害を加えた場合」(民法715条)に該当し、損害賠償義務を負うことになります。
 つまり、加害者の個人的行為で職務と何ら関係ないと主張しても、事業との密接な関連性や支配従属上下関係などがある場合は、使用者責任が問われるのです。使用者はセクハラ防止に努め適切に対処し働きやすい職場環境を保つよう配慮する義務があり、セクハラ行為の訴えに適切な対処をしなければ責任を問われるということです。
 さらに、雇用保険の離職理由判定でも「労働者が事業主又は人事担当者、雇用均等室等の公的機関に相談を行っていたにもかかわらず事業主において対策を講じなかったため離職した場合」には、事業主による故意の排斥による離職として扱われ、特定受給資格者となることを知っておいてください。一定数以上の特定受給資格者を出した事業主は助成金が受給できない場合があります。
 他にも、セクハラに関する苦情等の申し立てを理由として解雇等の不利益取扱いをすることも禁止されているので注意しておく必要があるでしょう。事業主が配慮義務を怠り均等法違反の場合、行政指導の対象となってしまいます。
 ここで参考までに、最近のセクハラ裁判の事例を挙げてみます。
性的嫌がらせを職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったものとして使用者責任を肯定し被告と被告会社に連帯して慰謝料100万円と弁護士費用10万円の支払命令が下った「大阪事件」(平成10・12・21大阪地裁)
女子トイレ内に男子従業員が潜んでいた案件で被害発生当日に会社は具体的な事情聴取をしなかったことなどから使用者の職場環境配慮義務違反を肯定し被告会社に320万円の慰謝料と30万円の弁護士費用の支払命令がでた「仙台セクハラ事件」
(平13・3・26仙台地裁)

セクハラ防止措置について

 さて、セクハラ防止として何をすべきかですが、均等法ではセクハラ防止措置として、以下の3点の指針を挙げています。

(1) 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
(2) 相談・苦情への対応
(3) 職場内でセクハラが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応
 具体的には、(1)については「就業規則へセクハラ行為に関する懲戒事項を規定すること」、(2)では「意識啓発の研修・講習を実施、苦情処理部門の設置」、(3)では「事実関係の確認に応じた配置転換等などの措置をとること」などが重要となります。
提供:株式会社TKC(2002年7月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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