Q&A経営相談室
【特許戦略】
中小企業が知っておくべき改正特許法の中身と注意点
 
Q:
 特許法が約40年ぶりに抜本的に改正されたとのことですが、その内容と中小企業が注意すべき点を教えてください。(機械部品メーカー)
 
<回答者> 兼子・岩松法律事務所 弁護士 木崎 孝

A:
  平成14年4月17日、特許法の改正法(特許法等の一部を改正する法律、平成14年法律第24号)が公布されました。改正の狙いは、1.情報技術の急速な進展に伴い、ネットワークを利用した新たな事業活動に即応した法整備を行い、特許権の保護を強化する。2.制度の国際調和、出願人の負担軽減、特許庁における審査の効率化の観点から、特許の出願方式の見直しを図る――の2点です。
 主な改正点は、第一に「ソフトウェア等の情報財保護の明確化」です。特許権は、特許発明を排他的に実施できる(他人の実施を禁止できる)権利です(特許法第68条)。そして発明の実施とは「物の発明にあっては、その物を生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、もしくは輸入し、又はその譲渡もしくは貸渡しの申出をする行為」であると定義されていました(改正前の第2条3項1号)。
 しかし、この「物」の中に、コンピュータプログラムのような無体物が含まれるかどうかは明確ではありませんでした。そこで、今回の改正では、特許法上の「物」にはプログラム等も含まれることを明確にしました。
 プログラムは、CD-ROM等の媒体に記録されない状態でインターネットを介して流通することが多いため、このような行為も規制対象にしなければ、プログラムを特許法で保護する意味がありません。このため、特許されたプログラム等をネットワーク上で無断で送信する行為等も、特許権侵害に当たることが明記されました。
 具体的には特許法第2条3項1号は、「物(プログラム等を含む)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む)もしくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」と改正されました。

間接侵害の範囲拡大に要注意

 第二に、「間接侵害の規定の拡充」です。特許製品の一部の部品や、方法特許の実施に使用する機械を製造販売したとしても、それだけでは特許のクレーム(構成要件)をすべて満たしてはいないので、直接特許権を侵害する行為にはなりません。
 これでは特許権の保護が十分ではないため101条で、特許発明の実施にのみ使用する物の製造・販売行為も特許権を侵害するものとみなすと定められていました(これを間接侵害といいます)。
 しかし、それでも、対象が専用部品(特許発明の実施にのみ使用するもの)に限定されていたため、判例上も、間接侵害が認められた事例は多くありませんでした。そこで、今回の改正では、特許権保護強化の観点から間接侵害の成立範囲が広げられ、専用部品(特許発明の実施にのみ使用されるもの)でなくても、悪意で(特許発明であること及び侵害に用いられることを知りながら)部品を供給した場合には、間接侵害が成立することとされました。
 したがって、下請けとして部品を製造・納入しているだけであっても、その部品を使用して特許侵害品が製造された場合、悪意を要件としますが、特許権侵害による差止請求や損害賠償請求の訴訟を起こされる危険もありますので、注意が必要です。

 第三に「先行技術文献情報開示制度の導入」です。発明は、新規性及び進歩性が認められて初めて特許権という権利が付与されます。この新規性及び進歩性の要件を満たすかどうかは特許庁の審査官が判断するわけですが、その発明に関連する先行文献の調査をすべて審査官が行っていたのでは時間もかかります。
 そこで、迅速かつ的確な審査の実現を図るため、今回の改正では、出願人が有する先行技術文献情報を出願の際に審査官に開示することが制度化(義務化)されました(36条4項2号)。
 中小企業が生き残るには、独自の製品・技術を持つことが重要なだけに、今回の改正点をよく認識しておくことが大事です。

提供:株式会社TKC(2002年6月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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