Q&A経営相談室
【賃金制度】
社員が納得する賃金カットの方法は
 
Q:
 最近業績がふるわず、厳しい状態が続いています。社員の賃金にまで手をつけざるを得なくなってきています。どのように行えばいいでしょう。(機械部品メーカー)
 
<回答者> 社会生産性本部 主席経営コンサルタント 飯野峻尾

A:
 賃金をはじめ労働条件は、3つの方法で決まります。1つは、使用者と労働者の個別契約にもとづくものです。2つ目は就業規則で制定されている場合です。3つ目は、使用者と労働組合との間で締結された労働協約による場合があります。
 個別契約において、賃金カットが双方で合意されれば、労働基準法はじめその他の法律に抵触しない限り何ら問題がありません。また、労働協約において賃金カットにつき締結された場合にも、同様に労働基準法はじめその他の法律に抵触しない限りそれに従わざるを得ません。
 問題は就業規則の改定において、賃金カットが「不利益変更」に該当する場合です。就業規則を制定・変更するのは使用者ですが、賃金、退職金等の労働者にとって重要な権利・労働条件に関して実質的な不利益を及ぼす変更(不利益変更)については、その不利益が労働者に受認させることを許容できるだけの、「高度の必要性に基づいた合理的な内容」でなければならない、となっています。そして、その高度の必要性はかなり厳格(会社側に厳しく)に解釈されています。
 合理性の有無としては、判例などから、1.就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、2.使用者側の変更の必要性の内容・程度、3.変更後の就業規則の内容自体の相当性、4.代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、5.労働組合等との交渉の経緯、6.同種事項に関するわが国社会における一般的状況などを、総合的に考慮して判断するとなっています。

賃金カットも一工夫を

 賃金カットの方法としては、カット率を例えば全社員一律5%にするというやり方と、管理職層一律10%、一般職層一律5%というように職層別に変えている場合があります。また、カットする賃金の対象を基本給や手当のみを対象とするやり方や、生活関連手当を廃止するというやり方があります。
 しかしながら、これらの方法で気になるのは、「痛みを分かち合う」という視点からの“一律で”という考え方です。たとえ企業業績が厳しい状況にあっても、その中で貢献している人もいると思います。むしろ、そういう人に対しては従来より高い賃金で報いるべきです。そうすると当然ながら、その原資は貢献度の低い人から回さざるを得ません。このようなことをきめ細かく評価することを、むしろこの機会に行ってみることをお勧めします。

 また単に、場当たり的な賃金カットという対応ではなくて、企業業績と連動する人件費へ、すなわち人件費の「変動費化」を制度化することが大切と考えます。その結果、業績が厳しいときはそれに応じた賃金となり、業績が向上すればそれに応じた賃金となります。もちろん、その中で貢献度に応じた個人への配分ということも検討されていきます。企業の成長の担い手は「管理職層」です。よって、企業業績の反映はこの職層が大きく適用されるのは当然といえます。
 人件費の変動費化の方法としては、1.資格制度を年功や能力から職務や成果へ、2.管理職層は能力給から役割や成果に応じた年俸制へ、3.一般職層も年齢給や能力給から役割給や職務給へ、4.賞与原資をより企業業績を反映した成果配分へ、5.賞与の個人配分においては、基本給連動型から同一資格、同一評価は同一支給額とする方法へ、6.退職金は役割や成果によるポイント式へなどがあります。
 「緊急避難的」に賃金カットを行う場合には、実施にいたった経緯、実施の目的、適用となる社員の範囲、カットをする賃金の対象とカット率または額、実施の期間、業績向上のための施策などを、社員に説明しなければなりません。
 また、筆者が勧める「業績連動型」に賃金決定を行う場合には、なぜこの制度を導入するのか、連動する業績の指標を何にするのか、どんな仕組みになるのか、どのようなルールでやっていくのか、いつから実施するのかなどを社員に説明します。

提供:株式会社TKC(2002年2月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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