Q&A経営相談室
【人員整理】
希望退職制度を実施する際の留意点は
 
Q:
 これまで経営のさまざまな分野でコスト削減につとめてきましたが、先行きの見通しが立たず人員の整理を行わざるを得なくなりました。ついては希望退職制度を実施したいのですが、その方法と留意点を教えてください。(食品製造業)
 
<回答者> 社会生産性本部 主席経営コンサルタント 飯野峻尾

A:
 希望退職制度とは、業績が悪化した企業が人員削減のために一定の期間限定して行うものです。この制度と似ている早期退職優遇制度は、企業側の事情よりもむしろ労働者個人として職業に関する生涯計画の選択肢の1つとして利用されるもので期間は限定しません。定年前の中途退職による経済的な不利益を補い、60歳以降の労働の機会を有効な時期に得ようとする労働者が、定年を待たずに退職する場合の生活設計の一助となるものです。
 この2つの制度で大事な点は、あくまで労働者の意思によるもので、会社側からの退職勧奨とか整理解雇とはまったく異なることです。退職勧奨なり整理解雇をする場合には、労働基準法第19条から同21条に定める解雇手続が必要となります。
 念のため退職勧奨と整理解雇についても触れておきます。退職勧奨は、企業経営の悪化を背景に使用者が労働者に対して合意解約を行うことで、あくまで労働者の任意の意思を尊重する必要があります。行き過ぎた退職勧奨は解雇に該当し、場合によっては損害賠償の対象になります。また退職勧奨をする場合は勧奨者数、優遇措置の有無、勧奨の回数・期間、本人の拒否の態度などを総合的に考慮し、労働者の自由な意思決定が妨げられていないかどうかを判断します。
 一方、整理解雇は判例などから、企業の維持・存続を図るため人員削減が必要であること、配置転換・出向・希望退職者の募集など、会社が解雇回避の努力を十分尽くしたこと、解雇対象者の選定基準が合理的であること、解雇手続きが妥当であること、が要件として求められます。

割増退職金がポイント

 希望退職制度を実施する場合は、その目的、応募条件(年齢・勤続年数・職種など)、期限、人数などを公表します。公表は主に通達、掲示板、メールを利用して行います。
 小売業のY社は、45歳以上59歳以下の社員が対象で、応募した社員には通常の1.3から2.7倍の割増退職金を支給するほか、再就職が決定するまで再就職支援会社の費用も負担します。また55歳以上の応募者は通常の退職金に加え、基準賃金の50%相当額が最長3年間、60歳まで毎月支給される支援年金を選択することができます。
 製造業のS社の場合は、40歳以上の社員を対象に特別退職優遇制度を実施しています。売上の低迷と競争激化で経営環境が厳しさを増しているため、事業規模に見合う人員体制への移行を目的としています。応募者には同社の会社都合退職金に加え、基本給の24ヵ月分を最高に年齢別に設定した特別加算金を支給します。また再就職支援会社と契約し、応募者の再就職のための費用負担も用意します。
 事例にあるように、希望退職制度は割増退職金がポイントで、退職金の加算割合により利用状況が左右されます。加算割合が高ければ利用者が増加しますが、退職金支払コストが増し人材流出の懸念もあります。逆に加算割合が低いと利用者が少なく、制度の存在意義が薄れます。退職金の加算割合をどのレベルにするかが制度運営上のカギとなります。
 留意点は、あらゆるコスト削減の実施、例えば役員報酬のカット、諸経費の削減など、いろいろやりつくした後に希望退職を募ることです。 したがって、なぜ希望退職制度を採用するのか、の考え方をまず明確にします。そのうえで人数、対象者の年齢、職種などを決めます。
また優遇措置の有無も整理する必要があり、退職金の扱いをどうするのか、自己都合なのか会社都合なのか、退職金の割増加算をするのか、その場合の加算はいくらにするのか、他の優遇措置、例えば再就職の支援(紹介、転職先を探す期間の有給制度など)、技能習得支援(OA関連技能、特殊機械操作技能など)を設定するのか――などを社内で検討します。
 微妙な問題も抱えているので事は慎重に進めなければなりません。

提供:株式会社TKC(2002年1月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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