Q&A経営相談室
【特許戦略】
開放特許を活用して新事業を立ち上げるには
 
Q:
 開放特許を活用して新事業を立ち上げるケースが増えてきていると聞きます。どのような準備や手続きをすればうまくいくのか教えてください。(機械部品メーカー)
 
<回答者> 千葉県知的所有権センター 特許流通アドバイザー  稲谷稔宏

A:
  ご質問にあったような問い合わせは、ここ数年でかなり増えています。その理由は、中小・ベンチャー企業が大手企業などから未利用特許(開放特許)の実施権を得て、新規事業を展開するなどの成功例が続々と出てきているからでしょう。
 多くの中小企業は、目前の売上に縛られ、長期的な研究開発に多額の投資を行うことは一般に難しいことです。ところが、大手企業が潤沢な資金をもとに開発して未利用になっている開放特許を活用すれば、この問題を解決することができます。中小企業の経営が革新され、日本経済の打開につながると期待されます。
 開放特許は、現在およそ40万件といわれますが、このうち明確に登録されているものは約4万件です。これらのデータベースや活用事例は、全国の経済産業局や知的所有権センターなどで閲覧できます。
 とはいえ、中小企業がいきなり、大手企業のドアを直接叩いても、なかなかうまくいきません。そこで、両者のパイプ役を務めるのがわれわれ特許流通アドバイザーです。特許の流通促進は政府の中小企業支援策の1つとして1997年に始まり、特許流通アドバイザーも現在、全国におよそ100人を数えるようになりました。私たちが仲介した事例だけでも、年内に1000件を超える計算です。
 出願された特許には「大事なことは必ずしも書かれていない」といわれます。つまり実施権を得たからといって、その権利だけで中小企業側が製品化できるようなケースはほとんどありません。むしろ特許の背景にある製造ノウハウなど、一歩踏み込んだ技術供与をいかにして受けることができるかがカギとなります。
 そこで、私たちアドバイザーが横の連携をとり、所有者の大手企業や大学等に働きかけます。
 大手企業との交渉を例にとれば、知的財産部門よりも、むしろ特許を生み出した開発担当者にじっくり会えるかどうかがポイントでしょう。このため場合によっては、実施権だけでなく、ノウハウ供与の契約を結ぶこともあります。
 成否を左右するのは中小企業側に長いスパンで特許と取り組むことができるかどうかです。中小企業が実施権を得て、製品を市場へ投入するまで数年に及ぶケースもあるからです。本業が軌道に乗っていなければ、このような余裕は生まれません。
 さらに重要なのは、中小企業が自らのニーズをもとに探し出すことです。例えば環境ビジネスに将来性があるからといって、部品メーカーがデータベースから不慣れな環境関連の特許を選び出しても成功に導くことは難しいでしょう。本業ではない領域のものに手を出すより、ニーズを解決する特許にターゲットを絞るべきです。

ロイヤルティの相場

 特許の活用で成功した経営者の資質をみてみると、大きく分けて3つのポイントがあります。1.交渉に長けており、相手から必要な情報を引き出す能力がある、2.対象となる特許に関する知識が豊富で、技術を冷静に判断できる、3.大手企業に対する不信感がなく、対等に物事をやり取りできる――という資質です。
 実施権の供与を受けるにあたって気になるのがコストです。中小企業は大掛かりな初期投資が難しい状況にあるので、契約書を交わした際に一時金を支払い、販売後にランニングロイヤルティを支払うケースが一般的です。ケースバイケースですが、一時金は100万円未満、ロイヤルティは製品がもたらした売上の3%程度が主流です。とはいえ、バイオや医薬品関連では15%のロイヤルティが設定されるケースもあり、業界によって異なります。
(インタビュー・構成/ジャーナリスト・木全 晃)

提供:株式会社TKC(2001年11月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
戻る ▲ ページトップへ戻る