Q&A経営相談室
【税  務】
スムーズな事業承継のための5つのポイント
 
Q:
 経営者として事業承継が気になる年齢になってきました。後は長男に継がせたいと考えていますが、税制上どのような点に注意すべきでしょうか。また、事前に準備しておくべきことなどがあったら教えてください。なお、当社は同族・非上場会社です。(電気工事業)
 
<回答者> 税理士 飯島將史

A:
 事業承継にはおおまかに言って5つほどのポイントがあります。それは、1.「後継者対策」 2.「株価対策」 3.「株主対策」 4.「納税資金対策」 5.「遺産分割対策」――です。このなかで税制に関係してくるのは、2つ目以降の項目からです。
 まず株価対策です。非上場株式会社の場合、財産評価基本通達の定めるところにより、会社所有の土地、建物、設備などの事業用資産を基礎にして株式の時価が算定され相続税が課税されます。非上場株式は物納による納税が認められず、その換金性も低いためオーナー社長に相続が起こるとたちどころに納税資金に困るという状況を招きます。これをさけるには、まず、自社株の株価を、できれば毎年の決算期に算定してその現在価値を把握し、そのうえで事前贈与や事前譲渡で株式を生前から長男に移転しておくことが必要となります。さらに、株価が高ければ高いほど当然ながら税金の額も高くなりますから、いかに自社の株価を下げるかがポイントとなるのです。
 次に株主対策です。オーナー社長が自社株を生前に移転していく際は、1.長男にほとんど移す、2.配偶者や他の子にも一定割合を配分する、3.社員持ち株制度等で社員にも所有してもらう、という3つの考え方があります。一般的に、非課税枠を最大限に活用するには複数人に分配した方が税制上有利です。しかし、会社支配権のことを考慮した場合これはあまりお勧めできません。その理由を事例で説明しましょう。

◆例1 社長が相続で有利になるように配偶者や複数の子供たちに生前から株式を譲渡していた。ところがそれぞれが議決権を有する10%以上の株式をもつようになり、しばらくして家庭争議が勃発。それが原因で社長が奥さんと子供たちから解任されるという事態が発生。結果、事業は衰退していった。

◆例2 社員持ち株制度を実施する。ところがその社員が退社し、その後株主総会議事録の閲覧を要請してくる。議事録に役員報酬の決議が記載されていないことを理由に業務上横領で告訴され、結果、会社を乗っ取られることに。

 これらは実際にあった事例です。節税にばかり目がいき、円滑な事業承継という本来の趣旨を取り違えてしまったために起きた不幸だといえます。後継者の長男には最低でも発行済株式の50%、できれば3分の2以上を引き継ぎさせたいものです。
 株式を移転する際の税制上もっとも有利な方法は贈与の非課税枠110万円ずつ何年もかけて生前贈与することですが、実際には個々の企業の実情にあった方法を選択することとなります。いずれにしろ大向こうを唸らすような妙案はないということを理解しておいてください。

遺言作成で“争族”をさける

納税資金対策では、生命保険の活用が有効です。生命保険では相続人1人当たりの受取金500万円まで相続税がかからないからです。
 最後に遺産分割対策です。株式のほとんどを長男に移行するわけですから、それとバランスをとって他の相続人への遺産分割を生前から考えておく必要があります。また、社長が個人資金を事業用に貸付けている場合はこれも相続財産とみなされるため、その総額を把握し早期に回収するか債権放棄等の処置をとっておくことをお勧めします。そして最も重要なのは、公正証書形式で遺言を作成しておくことです。これらを怠ると相続が“争族”になってしまい、後継者である長男に大変な負担をかけることになってしまいます。
 どのような小さな企業も少なからず社会的な責任を負います。その意味で経営者は、自社をスムーズに承継するための方策を常に考えておく責任があるといえるでしょう。税制は経済情勢等で大きく変化しますから、顧問税理士と相談しながら上手な事業承継を進めてください。
(インタビュー・構成/「戦略経営者」・千葉博文)

提供:株式会社TKC(2001年10月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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