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工場の作業内容によっては、ある程度の騒音・振動を出さざるを得ない場合があり、これをまったくなくすことは困難です。しかし、近年の環境問題に関する住民の意識は高まる一方で、これまで許されていたような振動・騒音でも、クレームが付くケースが増えています。
その意味でも、企業が工場を運営していく上で、環境問題にどう向き合い、どう解決していくかは、ますます重要な問題となりつつあるといえるでしょう。
騒音や振動は、操業に伴い発生するいわば副産物であり、出さずに操業できればそれに越したことはありませんし、経営者としては可能な限り出さないようにすべきものである、ということをまず認識すべきです。これを騒音や振動が出るのは当然であり、周辺の住民は我慢すべきだという意識で対処すると根本的な対立に至り、最悪の場合、操業に影響を与えかねません。
今の時代、工場などを将来的にも安定して操業していくためには、騒音・振動だけではなく様々な環境問題に関して、先行して対策を充実させ、地域住民の支持を得ていくことが不可欠だということを認識することが必要です。
公的規制のクリアは最低限必要
とはいえ、現実的には完全に騒音・振動をなくすことは容易ではありません。 騒音や振動に関しては騒音規制法・振動規制法あるいは条例などで行政上の基準が定められています。これは地域の状況などに応じて指定された基準であり、これを遵守することは最低限必要です。まずは当該の工場に適用される規制値を確認し、実際に数値を測定してみて、行政上の基準に反しているときには早急に改善が必要です。
ここで注意が必要なのは行政上の規制をクリアしていることはあくまでも最低限のことであり、近隣との民事上の関係ではそれだけをもって違法性がないと言い切れない、という点です。
行政上の規制は一律に規制値を設定していますが、個別の事情によりそれでも何らかの被害が発生している場合には、たとえ行政上の規制をクリアしていても、民事上違法と判断され、裁判上差し止めや賠償が命じられるケースがあり得ます。
とはいえ、現実にはまず行政的な規制が客観的な判断の第一の基準となるので、騒音・振動にかかわらず環境が問題となった場合には、まず行政的な規制値を確認し、それを満たしているかを測定し、これを満たしているならそのことを周辺住民にきちんと説明すべきです。できれば、測定の際に住民の立ち会いなどを認めて数値への信頼を確保すべきでしょう。
その上で、謙虚に被害の状況なども把握した上で、さらに行政基準以上の環境対策が可能であれば、それを誠実に示しながら交渉をするべきだと思いますし、大部分はそれで話し合い解決の道が開けると思います。
第三者機関の活用も
とはいえ企業側と住民側では立場が違いますから、双方が感情的になり、なかなか話し合いがまとまらず、結果として対立が激化する場合がままあります。
そういうときには、第三者を間に置くことが必要になってくるでしょう。裁判所の調停や自治体における調停・斡旋手続き、公害等調整委員会による公害紛争処理手続き、弁護士会における仲裁手続きなど、この手の問題に活用可能な様々な解決の場がありますから、こういう手続きを利用して第三者的な意見を聞きながら合意の努力をするのも一つの方法です。
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