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一人医師医療法人設立の基礎知識
新規に設立する医療法人の形態は、第5次医療法改正(2007年4月施行)によって、「出資持分の定めのない社団医療法人」または「財団医療法人」に限られています。また、持分のない医療法人の活動の原資となる資金の調達手段として「基金制度」が採用できるようになったことから、新規設立の場合は「基金拠出型法人」(出資持分の定めのない社団医療法人の一類型)とするケースが多く見受けられます。
法人化の目的は、資金の集積を容易にするとともに医療機関等の経営に永続性を付与し、私人による医療事業の経営困難を緩和することにあります。したがって、社会的信用を高めたいと考えている、事業承継を考えている、事業展開を考えている、節税効果を期待しているといった方は一人医師医療法人の設立を検討されてはいかがでしょうか。
<一人医師医療法人の設立を検討したほうが良い場合>
1)社会的信用を高めたいと考えている |
2)事業承継を考えている |
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3)事業の展開を考えている |
4)節税効果を期待している |
◆一人医師医療法人化した場合のメリットと留意点
メリット
- 社会的信用が高まります
- 1) 法人会計を採用することで、適正な財務管理ができます。
- 2) 金融機関等への対外的信用が向上します。
- 事業承継がすすめやすくなります
- 1) 基金拠出額が拠出者の財産評価額になりますので、事業承継、相続対策等を計画的にすすめやすくなります。
- 事業の展開が図れます
- 1) 分院や介護保険事業等への進出が可能になります。
- 2) 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の開設も可能になります。
- 節税効果が期待できます
- 1) 所得税の「超過累進税率」から法人税の「2段階比例税率」を適用することにより、税負担を軽減することが可能です。
- 2) 院長先生のほかに院長夫人等の家族を役員にすることで、その職務に応じた役員報酬の支払いができ、効果的な所得の分散がはかれます。
- 3) 役員の退職時に役員退職金を受け取ることができます。
- 4) 一定の契約条件を満たした生命保険契約や損害保険契約等の保険料を経費(損金)にすることができます。
留意点
- 経営上の注意点
- 1) 医療法人の附帯業務について、業務範囲が制限されています。
- 2) 剰余金の配当禁止規定等によって、剰余金が内部留保されます。
- 3) 医師個人は、原則として役員報酬を受け取ることになり、役員報酬以外の自由に処分できる資金がなくなります。
- 4) 社会保険が強制適用となり、役員及び従業員は健康保険・厚生年金に加入しなくてはなりません(一定の手続きにより医師国保を継続することも可能です)。
- 5) 法務局に役員変更等の登記や都道府県知事に事業報告書等の提出が義務づけられます。また都道府県知事に提出された事業報告書等は一般の人でも閲覧可能になります。
- 6) 都道府県知事による立ち入り検査等の指導が強化されます。
- 7) 特別な理由がない限り、安易に解散することができなくなります。
- 8) 医療法人が解散した場合、残余財産の帰属先が国、地方公共団体、財団医療法人、持分の定めのない社団医療法人等に制限され、個人が受け取ることはできません。
- 税務上の注意点
- 1) 交際費として、損金に算入できる金額に限度が設けられています。
- 2) 個人で掛けていた小規模企業共済は、原則として脱退しなくてはなりません。
◆個人診療所を一人医師医療法人にした場合の税額比較(シミュレーション)
〈前提〉
整形外科、無床、従業員数15人、開設より11年経過、建物は個人所有のまま法人に賃貸。
法人化に伴う特別な費用は考慮せず、経常的な収入・費用での比較。
税額計算は医師個人の所得控除額を3,050千円にて計算しています。
(役員報酬や地代家賃の金額設定によって税額計算は異なります)
科 目 | 個人の場合
(1) | 法人の場合
(2) | 増減
(2)-(1) |
備 考 |
I
医業収入 | 137,000 | 137,000 | 0 |
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II 医業費用 | 78,250 | 112,150 | 33,900 |
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1.給与費
(再掲)青色専従者給与 (再掲)その他の給与 (再掲)法定福利費 役員報酬 2.医薬品費・材料費
3.委託費 4.減価償却費 (再掲)建物減価償却費 (再掲)その他減価償却費 5.その他医業費用
(再掲)保険料 (再掲)租税公課 (再掲)地代家賃 (再掲)支払利息 (再掲)その他費用 | 32,700
5,400 24,950 2,350 − 24,650 3,200 4,050
2,200 1,850 13,650 100 700 0 1,650 11,200 | 64,350
− 24,950 4,000 35,400 24,650 3,200 1,850
0 1,850 18,100 700 100 6,000 100 11,200 | 31,650
▲5,400 0 1,650 35,400 0 0 ▲2,200 ▲2,200
0 4,450 600 ▲600 6,000 ▲1,550 0 |
(注1)
(注2) (注3) (注4) (注3)
(注5) (注3)
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III 収支差額(I−II) | 58,750 | 24,850 | ▲33,900 |
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税額計算
(1)個人医師個人所得税
・住民税
(2)配偶者所得税
・住民税 (3)法人税・法人住民税 |
25,050 490 − |
9,900 490 8,700 |
▲15,150 0 8,700 |
(注6)
(注7)
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(1)+(2)+(3) 合計税額 | 25,540 | 19,090 | ▲6,450 |
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(注1)
社会保険への加入により増加 (注2) 役員報酬は理事長(医師)月額2,500千円、理事(配偶者)450千円(青色専従者給与と同額)として計算
(注3) 減価償却費・租税公課・支払利息の減少額は不動産所得の必要経費として計算 (注4) 法人契約の一定条件を満たした生命保険料月額50千円の増加として計算
(注5) 法人より個人に支払う地代家賃は月額500千円として計算 (注6) 医師個人は、給与所得26,800千円と不動産所得1,650千円の合計額にて税額計算
不動産所得 地代家賃収入 6,000 建物減価償却費 ▲2,200 租税公課 ▲600
支払利息 ▲1,550 ―――――――――――――――――――― 差引 1,650
(注7) 法人税等の実効税率を35%として税額計算 |
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