中小企業経営承継円滑化法 経営承継税制の実践的な活用法

◎税理士 今仲清

民法の2つの特例と金融支援措置

Q1 今年5月に成立した「中小企業経営承継円滑化法」の中身を教えてください。

A この法律は、近年、経営承継問題で廃業を余儀なくされている中小企業が増えていることに対して、政府として総合的に支援する狙いから作られたものです。その柱は、(1)民法の遺留分に関する特例、(2)金融支援、(3)相続税の課税の特例、の3つです(図表1参照)。適用対象企業は「中小企業基本法」に定められている中小企業です(図表2参照/(1)・(2)については図表2の右側部分も含まれます)。
 同法が施行されるのは今年10月1日からですが、その時点でスタートするのは(2)の金融支援措置で、(1)の民法の特例に関しては来年3月1日からです。(3)の相続税の特例に関しては21年度税制改正で創設されることになっていますが、その適用は今年10月に遡ってできるようにされる予定です(図表3参照)。

図表1 中小企業経営承継円滑化法骨子 図表2 中小企業基本法上の中小企業の定義 図表3 特例適用のスケジュール

Q2 なぜ「遺留分」に関して特例措置が設けられたのでしょうか。

A この特例には2つあります。1つは「贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる」こと、今1つは「贈与株式等の評価額を予め固定化できる」ことです。遺留分とは、民法が相続人に保証している一定割合のことをいいます。
 民法は「法定相続分による法定相続を原則」としています。要するにこれは亡くなった時点の財産だけでなく、何十年も前に生前贈与した財産についても、全部合計して法定相続分を計算するというものです。
 実は、ここを勘違いされている人が多いのです。一般に10年も20年も前に生前贈与された自社株式については相続財産に加算されないと思っているからです。確かに暦年課税制度を使って自社株式を贈与した場合、相続開始3年以前に贈与されたものに関しては相続財産に加算しなくてよいのですが、これはあくまでも税金(相続税)に関する話であって、民法上は期間に関係なく全部足して法定相続分の計算を行わなければなりません。当然、相続財産にすべての贈与が加算されることになれば遺留分の額は違ってきます。そこで今回(経営承継円滑化法)、法的(民法)に後継者に贈与した株式などを遺留分算定基礎財産から除外できるようにしたわけです。
 もう1つの「評価額を固定化ができる」というのは、仮に後継者が被相続人から自社株式を譲り受けたときの評価額が1株当たり1000円だったとします。それを、後継者の方が頑張って経営されてきたことによって、20年後に相続が起こったとき、1万円に上がっていたとすれば、今の制度では贈与時点の評価額ではなく、相続発生時点の評価額で法定相続分を計算することになっています。これでは、まるで後継者は他の相続人の財産を増やすために頑張ってきたというようなことになりかねないので、今回、予め評価額を固定化できるようにしたわけです。

Q3 この特例措置が適用されるための条件というのは…。

A 両方とも、関係者全員(後継者とそれ以外の推定相続人)が、そのことについて「合意」していなければ適用されません。具体的な手続きは合意してから1ヵ月以内に後継者は「経済産業大臣」(地域経済産業局)に「申請書」を提出し、それが法的に要件を満たしているかどうかの「確認」が行われます。確認されると次に1ヵ月以内に、後継者は家庭裁判所にその許可を申し立てて、その合意が真意であると確認されれば許可されて効力が発生します。
 実は、現行法においても今回の特例(遺留分算定基礎財産から除外)に似たようなことができます。それは「遺留分放棄」です。相続開始前の遺留分放棄とは、遺留分権利者が自ら家庭裁判所に赴き、その許可を申し立てるというものです。これは実際かなり行われているのですが、半面、“遺留分放棄の取り消し”というのも頻繁に行われています。なぜか。被相続人(父親)が生きている間は怖いため、言われるまま推定相続人(例えば娘)は遺留分放棄の手続きを行うものの、いざ亡くなればやはり貰える財産は欲しいということで取り消しに(家庭裁判所へ)行くからです。家庭裁判所も、民法は法定相続分による法定相続を原則としているため、簡単に取り消しを認めます。けれども、今回の特例措置ではいったん家庭裁判所の許可が下りると、あとでそれをひっくり返すのは難しいとみられています。ここが最大のポイントです。

Q4 金融支援にはどういうものがあるのでしょうか。

A 金融支援措置には、(1)法人による自社株式等の取得資金融資制度、(2)後継者個人による経営安定化のための制度融資、(3)M&A支援に関する制度融資の拡充があります。
 なかでも一番の目玉は、(2)の後継者個人に対して融資が可能になったことです。例えば相続人は長男(後継者)、次男、長女の3人で、長男が次男、長女から自社株式あるいは事業用資産を買い取るとき、「日本政策金融公庫」(今年10月に中小企業金融公庫、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行の国際金融部門が統合)から資金を借りることができるというものです(図表4参照)。ただし、この場合も経済産業大臣(地域経済産業局に申請書を提出)の「認定」を受けなければなりません。そのうえで、日本政策金融公庫に融資の申し込みを行うことになるのですが、借りられるかどうかは(その人の)返済能力にかかっています。

図表4 後継者個人による経営権安定化のための制度融資創設
納税猶予制度の中身と利用の仕方

Q5 今回、相続税課税の特例措置として「納税猶予制度」が創設されるそうですが、その内容を説明してください。

A 昨年、新聞紙上で「自社株式の相続税の減税が行われる」といった報道がされたことで、いまだにこの減税を、「税金が免除になる」と思い込んでいる人が多い。が、これはあくまでも「納税猶予」にほかなりません。具体的には、「相続により取得した議決権株式(相続等までにすでに保有していた議決権株式を含めて、発行済み議決権株式の3分の2に達するまでの部分)にかかる課税価格の80%に対応する部分の相続税が納税猶予される」というものです。
 例えば後継者であるA氏が4億円を相続し、うち3億円が自社株式だったとします。この場合の納税猶予額がいくらになるかを、同制度の創設に伴って導入が検討されている「遺産取得課税方式」で計算してみると、(1)自社株式だけで計算した相続税額は[(3億円―3500万円基礎控除)×0.4(税率)―1700万円(控除額)=8900万円]、(2)納税猶予(80%)部分を除いた20%にかかる相続税額は[(3億円×20%―3500万円)×0.15―50万円=325万円](基礎控除がこの段階で行われるか否か、基礎控除額がいくらになるか等は不明。あくまでも仮定計算)、(3)「8900万円―325万円=8575万円」が納税猶予額となります。
 この納税猶予制度を受けるためには、まず前提条件として「事業承継の計画的な取り組み」が行われていなければなりません(図表5参照)。計画的な取り組みとは、「誰が後継者になるのか」と「自社株式などをどういう形で贈与していくのか」などを指します。要するに「経営承継基本方針書」(〔失敗しない「経営承継基本方針書」の作り方・進め方〕記事参照)を作成すればいいということです。それに基づき、生前に地域経済産業局に申請書を提出し、「確認」を受けておくことが必要です。そのうえで実際に相続が起こったら、会社が納税猶予を受けるために申請書を地域経済産業局に提出し、経済産業大臣が「認定」します。認定を受ければ、今度は後継者自身がこの認定書をつけて相続税の申告を行う、というのが一連の流れです。
 ただし、救済措置として次の2つの場合は大臣確認がなくても大臣認定が行われます。1つは、今年10月1日から22年3月31日までの間の相続に関しては、事前に大臣確認を受けることは困難であるため、後継者が相続前に役員に就任しているなど計画的な取り組みが行われていたと認定時に認められる場合であり、今1つは被相続人が60歳未満で死亡した場合です。

図表5 税制猶予制度の全体像

Q6 被相続人と相続人(後継者)の要件は……。

A 被相続人の要件は(1)会社の代表者であったこと(相続開始直前に代表者でなくてもよい)、(2)被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有、かつその同族関係者(経営承継相続人を除く)のなかで筆頭株主だったこと。一方、後継者の要件は(1)会社の代表者であり、被相続人の親族であること、(2)同族関係者と合わせてその過半数を保有、かつその同族関係者のなかで筆頭株主であることなどです。

Q7 5年間の継続要件の中身について教えてください。

A この納税猶予制度の適用を受ける場合、5年間は毎年1回、会社は地域経済産業局に「報告書」を提出しなければなりません。チェックポイントは、(1)代表者であること、(2)雇用の8割以上を維持すること、(3)相続した対象株式を継続して保有すること、です。
 言い換えれば、次の7つの場合は大臣認定が取り消されるということです。(1)報告を怠ったとき、(2)代表者でなくなったとき(不慮の事故で代表者を務められなくなった場合などには代表者退任でも継続)、(3)常時雇用する従業員数が8割を下回ったとき、(4)会社が倒産、解散したとき、(5)対象株式を譲渡・贈与したとき、(6)持株比率要件を満たさなくなったとき、(7)上場会社など「適用対象外会社」に該当したとき(大会社に成長した場合は継続する方向で検討)は、猶予税額を全額納付しなければなりません。

Q8 「認定対象外となる会社」とは具体的にどういう会社ですか。

A 認定対象外となる会社は大別して2つあります。1つは、(1)上場会社、(2)中小企業経営承継円滑化法の中小企業に該当しない会社(大企業・医療法人など)、(3)風営法の性風俗関連特殊営業を行う会社、(4)実質的な子会社(同族関係者と合わせて発行済議決権株式総数の50%超保有)が上場会社、中小企業者以外の法人(大企業、医療法人等)、風俗関連事業を行う会社である場合、(5)総収入金額がゼロの会社、(6)常時使用する従業員がゼロの会社です。
 もう1つの対象外というのは、(1)資産保有型会社と、(2)資産運用型会社です。(1)は総資産に占める「特定資産」(有価証券、不動産、現預金、ゴルフ場会員権、貴金属等)の合計額の割合が70%以上の会社、(2)は総収入金額に占める「特定資産」の運用収入の合計額の割合が75%以上の会社です。ただし、(1)・(2)に該当する会社であっても、「事業実態」のある場合は大臣認定の対象会社となります。
 いずれにしろ、経営承継円滑化法を活用するにあたっては顧問税理士に相談されることをお勧めします。

(インタビュー・構成/戦略経営者編集部・岩ア敏夫 戦略経営者2008年9月号より転載)

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