■著者に聞く

 『22の事例に学ぶ―ものづくり中小企業の勝ち残り戦略』
  ―中小製造業の自立復活を願って

 経済産業省産業企画部長として「産業クラスター計画」にも深く関わった藤和彦氏(現内閣官房内閣参事官)が『22の事例に学ぶ―ものづくり中小企業の勝ち残り戦略』(TKC出版)を書き下ろした。多くの成功事例を挙げ、中小企業が自立復活するためのヒントや考え方を示す。その読みどころやTKC会員への期待を藤氏に伺った。 
 

「売る視点」が社長を変える

 ――発刊の経緯からお聞かせください。

  かつて私が担当していた『2001年版中小企業白書』の編集過程でTKC出版の石岡(正行)社長と出会ったのがきっかけです。それまで中小企業を振興する立場の役所と税理士・公認会計士はあまり接点がないように思っていたんですが、それは間違っていました。特にTKC会員の皆さんは、まさしく中小企業庁がつくった経営革新支援法を一生懸命、現場レベルで普及されています。このように中小企業を再生しようとの思いが同じであることから、今回貴重な機会をいただいたということです。

 ――22社の成功事例を挙げているのが本書の特徴ですね。

  解説だけだと薄っぺらな理解になりがちなので、私が見聞きした事例を読者それぞれの立場に置き換えて参考にしてもらえたらいいなと思いました。

 ――「良いものを作るだけではダメ」「売る視点が必要」などのメッセージが強く印象に残りました。

  実際に商売をしたことのない私のような人間が何故そういうことを申し上げるのか。傍目八目という言葉があるとおり、たとえ耳障りでも、苦境にある中小企業が自立復活するために必要な条件をお伝えしなければならないと思っているからです。

 ――各章の最後には「こぼれ話」というコラムもあります。

 藤 第1章のコラムでは、埼玉県西部の若手社長ら十数名によるマーケティング研究会を取り上げています。これは単なる異業種交流でなく、参加者が1年間の研究成果として「売れる商品」を実際に開発し、量産化を目指すという画期的な試みです。
 具体的にはチタンのサイコロを作った入曽精密の斎藤社長や檜製のパソコン用キーボードを製作したMIYOSHIの佐藤社長などを紹介していますが、その考え方は1年間でガラリと変わってしまいました。かといって、ここに登場するのは特別な人たちでなく、極端なことを言えばどこにでもいる社長さんたちです。それが「売る視点」を持ったことで、心の中で化学変化が起きたのでしょうね。そうしたマーケティングマインドを読者の皆さんにも感じ取ってもらえたら嬉しいですね。

「小さいことはいいことだ」へ

 ――多くの成功企業と太いパイプを持つお立場から、中小企業が勝ち残る要諦は何だと思われますか。

  これまで企業の発想は「大きいことはいいことだ」でした。それを今後は「小さいことはいいことだ」に改めるべきでしょう。今はやりの欧米型マネジメントは、日本人にはあまり当てはまりません。むしろ日本人は手が届く範囲で濃密な人間関係をつくりながら仕事をするほうが力が出るし、社長も従業員も幸せだと思います。
 たとえば、社長が「おーい」と呼べば従業員が「何ですか、社長!」とすぐ答える。そんなアットホームな雰囲気が日本人には適しています。それなのに社屋がワンフロアからツーフロアになり、やがて支店ができ始めると互いの顔が見えなくなって元気を失います。そもそも仕事は生き甲斐や自己実現の手段であるべきです。

 ――岡野工業の岡野社長も「みんながどうして会社を大きくしようとするのか不思議でしょうがない」と言っているそうですね。

  岡野社長の立派なところは技術力ではありません。「6人6億」以上に会社を大きくしないところです。同じような技術力がある企業は日本にたくさんあると思います。しかし多くは中途半端な規模のため技術力だけでは勝負できなくなっている。小さいからこそ大手とも平気で喧嘩できるんです。
 日本人は過去2千年、狭い土地にたくさんの人が暮らしてきましたが、暴動など起こったことがありません。そうした日本人の心根の優しさ、民度の高さを反映した仕事をするのにも規模は小さい方がいいと考えます。
 もう一つ言いたいのは、自社製品に愛着を持つことです。その気持ちが強くないと自立復活は難しいと思います。いずれにしても、高度成長モデルなどの20世紀型効率主義を一度全部ひっくり返して考え直すべきですね。

中小企業はダイヤモンドの原石

 ――第2章では会社経営のプロの助言者としてTKC会員の例を挙げ、経営計画の必要性にも触れられています。

  常に現場感覚を持ち、勉強熱心なところがTKC会員の皆さんの素晴らしいところです。先に紹介したマーケティング研究会にも会員のお一人がずっと出席されていました。ものづくりの社長が研究会に参加するのは当然ですが、税理士・公認会計士には研究会は直接メリットがありません。にもかかわらず専門外のことにもどんどん手を伸ばし、中小企業のために行動されている。これには本当に頭が下がります。

 ――最後にTKC会員へ一言を。

  中小企業はダイヤモンドの原石のような存在です。日本の国力の源泉であるそうした中小企業に再び輝きを取り戻してもらうことが極めて重要です。そのためにも日本最古で最大最強のNPOであるTKC全国会に所属する皆さんには、その理念に従ってこれまで通り、中小企業支援に力を注いでいただきたいですね。

 (構成/TKC出版 古市 学)

藤 和彦(ふじ・かずひこ)氏 プロフィール

昭和35年名古屋市生まれ。59年通商産業省(現経済産業省)入省。平成3年JETROの海外研修としてドイツ留学後、資源エネルギー庁、大臣官房企画官兼製造産業局繊維課通商室長、関東経済産業局産業企画部長等を経て現在、内閣官房内閣参事官。信条は前例にとらわれない柔軟な発想。著書に『石油神話』(文春新書)、『よみがえれ中小企業』(平凡社新書)などがある。

(会報『TKC』平成16年11月号より転載)