《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
過去に分掌変更した役員に対する役員退職金の支給について
【質問】
A社においては、役員が常勤から非常勤に変わった場合、慣例として役員報酬は10分の1以下に減額されてきましたが、役員退職金については、規程が整備されていなかったこともあって分掌変更時点では支給せず、実際に退任した際に支給してきました。しかし今般役員退職金規程を制定し、役員が常勤から非常勤に変わった場合に、役員報酬を大幅に減額することは維持しつつ、分掌変更の役員退職金を支給するようにしようと考えています。 ところでA社には、10年前に常勤から非常勤になり現在も役員のB氏(同族関係者ではない)がおり、その役員報酬は分掌変更時に10分の1程度に減額されています。現社長は、役員退職金規程の整備が遅れたのはA社に責任があると強く思っており、今からでもB氏に、分掌変更時の役員退職金(以下「本件役員退職金」といいます。)を支給したいと考えています。 そこで、今の時点でB氏に「本件役員退職金」を支給した場合、損金の額に算入することができるでしょうか。
【回答】
1 役員退職金の本来的な支給時期と分掌変更等の場合の取扱いについて(1)「役員の分掌変更等の場合の退職給与」の取扱い(法基通9-2-32。以下「本件通達」といいます。)は、法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」ことによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができるというものです。 そして、「同様の事情にあると認められる」事実について、(《1》)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと、(《2》)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で「使用人兼務役員とされない役員」(法令71〔1〕五)に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと、(《3》)分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50パーセント以上の減少)したこと、という3つが例示されています。(2)ところで、会社と役員との関係は委任契約関係とされており(会社法330)、その委任契約とは、「会社(株主)が役員に対して会社の経営を委託し、役員がその職務執行の対価として報酬を得ることを約する契約」と解されます。 それゆえ、役員が就任したときから報酬(役員給与)を支払う義務が生じることになる一方、役員を退任(退職)したときには報酬(役員給与)を支払う義務もなくなることになります。 退職給与は、本来的にはこのような「退職に因り」支給されるものではありますが、「本件通達」は、引き続き在職する場合の「一種の特例」として打切り支給を認めたものであり、あくまでも法人が「分掌変更等」により「実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる」役員に対して支給した臨時的な給与を退職給与と認める趣旨である(税務研究会出版局刊・十訂版 法人税基本通達逐条解説919ページ・9-2-32の解説文より)と説明されています。2 ご質問について 上記1を踏まえて「本件役員退職金」を検討しますと、B氏が常勤から非常勤に変わったのは今から10年前とのことで、理由はともかくその時点では、役員退職金についてはまだ退任していないとして支給しないとの判断をしたものと理解できます。 「本件役員退職金」は、それを今の時点で退職金として支給しようとするものですから、「退職に因り」支給されるものでないことはもちろん、「分掌変更等」により「実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる」ものでもないと考えられます。 したがって、B氏に対する役員退職金については、原則に立ち返ってA社の役員を実際に退任する時に支給されるべきものと考えられますから、今の時点で「本件役員退職金」を支給しても、これを退職金として損金の額に算入することはできないと考えられます。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 5年 5月17日