Q&A経営相談室
他社の営業秘密を偶然知ってしまったら…
 
Q:
 たまたま入手したライバル会社の新製品の設計図面を自社の製品設計に利用することは法律に触れると聞きました。どういうことに気をつければよいのでしょうか。(製造業)
 
<回答者>弁護士 外川 裕

A:
 このようなケースでは刑事上と民事上の問題を分けて考えなければなりません。まず刑事上の問題ですが、概括的には、他社の営業秘密を不正に取得したり利用したりする行為は犯罪とされます。つまり、まったくの偶然でライバル会社の営業秘密である設計図面が入手できたのであれば、その図面を利用することは刑事罰の対象にはなりません。しかし、このような場合に本当に「たまたま」であったかについては十分な吟味が必要です。会社上層部に伝わっていないだけで担当者が勝手に不正な取得行為を行ったのだとすると、会社は「知らなかった」という言い訳ができないのです。「何でこの情報を入手できたのか分からないけど、まあいいか」で見過ごすことは会社を危険にさらすことになります。

 仮に不正な取得行為があった場合、それを行った当の社員が刑事罰の対象となることは当然ですが、会社にも両罰規程として3億円以下の罰金刑が科されることになり、実際に会社が書類送検される事件も最近発生しています。なお、現在国会提出中の不正競争防止法改正法案(本稿出稿時未成立)では罰則が強化され、会社に対する罰金刑が5億円以下に引き上げられる予定です。

 次に民事上の問題です。自ら不正に営業秘密を取得したり、不正に取得した営業秘密を使用、開示したりすれば損害賠償等の対象となるのは当然として、他人による不正取得行為が介在したことを知って営業秘密を取得、使用等する行為や、営業秘密を取得した後になって不正取得行為が介在したことを知り、その上で営業秘密を使用等する行為、さらには、不正取得行為が介在したことを重大な過失によって知らず、営業秘密を取得、使用等した場合も損害賠償等の対象となります。

 ポイントは、どこから持ち込まれた場合であっても、明らかに営業上秘密として扱われているはずの情報であれば、「普通、流通しているはずがない」と気づくはずですから、何も調査せずにその情報を取得することは重大な過失があるとされ、民事上の責任を問われるということです。ご質問の場合であれば、当該製品の販売等が差し止められることになり、かつ、当該製品を販売したのであれば、その販売実績に応じた損害賠償請求を受けることになりかねません。

 もちろん、たまたま営業秘密を入手したとしても、これを自社の製品設計に利用しなければこのような請求を受けることはないですが、上記改正法案では、被告が不正に営業秘密を取得したのであれば「使用していない」ことを被告が立証しなければならない、とされることが予定されています。つまり、通常、営業上秘密と扱われるであろう他社の営業情報に軽い気持ちで手を出すことは、かなりの危険を伴うことなのです。

提供:株式会社TKC(2015年6月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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