Q&A経営相談室
【労務管理】
労働者派遣法改正の方向性と対応策
 
Q:
 検討が進められている「労働者派遣法改正」の内容と対応策を教えてください。(自動車部品製造業)
 
<回答者>社会保険労務士 三留敏明

A:
 近年の経済・雇用環境を背景に、派遣切りや低賃金の実態が社会問題化し、労働者派遣法の改正が検討されています。今国会に法案が提出される予定ですが、その主な内容は次の通りとなっています。

(1)登録型派遣の原則禁止(ただし、専門26業務、高齢者派遣などは除く)
(2)製造業派遣の原則禁止(ただし、常用雇用は除く)
(3)日雇い派遣(日々または2ヵ月以内の期間)の原則禁止
(4)派遣先企業の労働者と派遣労働者の賃金などの均等待遇
(5)派遣元のマージン率の公開
(6)派遣先が違法派遣を受け入れた場合の直接雇用(直接雇用みなし制度)の促進(禁止業務への受け入れ、期間制限を超えての受け入れ、偽装請負の場合など違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなすこと)
(7)法律名に「派遣労働者の保護」を明記
(8)改正法の施行日は、公布日から6ヵ月以内の政令で定める日。ただし、登録型と製造業派遣の禁止は、公布日から3年以内。
(9)暫定措置として、登録型の一部については、施行日からさらに2年の猶予。

 改正案のベースは与党3党合意に沿った大幅な規制強化、労働者保護の観点に立っていますが、登録型や製造業の派遣を禁止した場合の影響を軽減するため、どちらも常用雇用は認めました。また、現在の不況下での規制強化が労働者保護にならず、逆に雇用不安を増幅しかねないという懸念が強まっていることから施行時期を細分化しているのが特徴です。

影響と対応策は

 これらの案が実現すれば、これまでの規制緩和路線から正規雇用化への転換を促す抜本的改正と想定されます。改正案の審議段階では、雇用情勢の悪化や派遣労働者の雇用を安定させることが改正の意義であり、製造業の技能継承の観点から労働者派遣には問題があるとの意見が出されています。

 しかし一方で、グローバル経済の競争激化と労働者派遣で働きたい人たちが一定程度存在することも認めており、特に中小企業において労働者派遣による人材確保が一定の役割を果たしているという指摘もあります。

 また、厚生労働白書では、「本当は正社員になりたいと考えている者が、相対的に年収の低い派遣労働者や契約社員とならざるをえなくなっている場合が増加している」との指摘もあります。労働者派遣制度については、将来の労働の質を見すえても、労使双方で根本的な検討を重ねる時期となったようです。

 企業としても派遣労働者の安易な活用をやめて、派遣労働者の雇用の安定と保護について業務の再設計を行い、法律の趣旨に合わせていく必要があります。正社員と派遣社員の本質的な意味合いを再認識して、派遣労働者を活用することが求められます。業務の質・量の明確化、労働時間の柔軟化、職業キャリアの確認、同一労働同一賃金の推進などを再検討し、コンプライアンスを順守して、派遣労働者に対する適切な雇用管理を心がけることが重要と思われます。

 最終的な改正案については修正の可能性も予想されます。今後の国会審議が注目されます。

提供:株式会社TKC(2010年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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