Q&A経営相談室
【賃金】
中小企業の09年賃上げ相場は?
 
Q:
 世界同時不況の影響で、どの会社も、今年は賃金を上げたくても難しい状況ではないかと見ていますが、実際(世間相場)はどれくらいになるのでしょうか。(機械装置メーカー)
 
<回答者>みずほ総合研究所 経済調査部エコノミスト 大和香織

A:
 昨年までの物価高を反映して、今年の春闘では多くの労働組合が賃上げ率の拡大を要求に掲げました。しかし、賃上げ相場への影響力が強い大手企業の幾つかが既にゼロ回答の方針を示すなど、労使の賃上げに対するスタンスは大きく食い違っています。

 景気悪化の下でも組合が賃上げを要求する背景には、(1)物価上昇に伴い実質所得が目減りすることは、労働者の生活維持・向上を掲げる組合としては阻止したいこと、(2)足元で企業業績が悪化しているといっても、それまでの好況期の蓄積によって賃上げは可能、と考えていることがあるようです。しかし、どちらも今年の賃上げ率上昇を支持するような論拠とはなり得ません。

 賃上げは定昇(賃金カーブ維持分)とベースアップ(ベア、賃金水準の底上げ)から構成されており、(1)のような物価上昇による賃上げ分は後者(ベア)に反映されます(中小企業では定昇が制度化されていないため両者の区別がつかないケースも多い)。しかし日本経団連の調査によれば、2000年以降の賃上げ率が2%程度で推移するなか、ベアに相当するのは0.1%前後に過ぎず、ほとんどが定昇部分となっています。これは日本が長らくデフレだったうえに、02年以降は賃上げよりも雇用維持を優先した組合がベアを要求してこなかったためです。景気回復に伴い徐々にベア復活が期待されるようになったものの、08年度までベア率に変化はほぼありませんでした。過去には、企業は賃上げ率を決定する際に物価動向を勘案することが多かったのですが、最近は少なくなっています。

中小企業は1.1%!?

 逆に、賃上げの際に最も重視する材料として「企業業績」を挙げる企業は7割近くに達しています。賃金の性格は労働者の生活保障的な意味合いから、業績に応じた成果配分の色彩が強いものに変化しています。

 (2)については、法人企業統計によれば確かに企業は02年度から06年度にかけて5年連続で増益を維持してきました。一方、この間労働分配率(人件費/付加価値総額)は低下し続けました。そのため、近年の賃上げ交渉において労働者への適正分配を求めてきた流れが、今年も続いているようです。ただし、昨年10-12月期は電気機械や輸送用機械などが赤字に陥ったほか、幅広い業種で大幅な減益となりました。みずほ総合研究所の見通しでは、08年度の経常利益は36兆円と、02年度以来の水準まで低下します。09年度に至っては、20兆円と83年度以来の水準に落ち込むと予想されます。09年度の中小企業の経常利益も10兆円と、84年度来の水準まで低下する見込みです。その結果、労働分配率は大きく上昇するとみられます。先行き不透明感は一層強まっており、このような局面では経営側は内部留保を取り崩して労働者への分配を増やすより、むしろ不測の事態に備えて手元流動性を確保しようとすると考えられます。

 以上のようなことから、09年度の春闘賃上げ率(主要企業)は1.75%(08年度1.99%)と6年ぶりに低下すると予想しています。中小企業ではさらに厳しく、1.1%程度と過去最低の賃上げ率となる見通しです。

提供:株式会社TKC(2009年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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