Q&A経営相談室
【資金調達】
資金調達の新手法「電子記録債権制度」とは
 
Q:
 電子記録債権法が施行されました。中小企業の資金調達円滑化を目的に創設された制度だそうですが、その概要を教えてください。(スポーツ用品卸売業)
 
<回答者>三菱東京UFJ銀行 IT事業部調査役 岸本伸幸

A:
 電子記録債権制度は、不動産担保や人的保証に依存せず、企業間の商取引にもとづいて、円滑な資金調達を可能にするために創設された制度で、今夏より利用可能となる見込みです。

 言い換えれば、同制度はしっかりと実業・商売を行っている企業であれば、商売そのものの信用力で、金融機関から資金提供を受けられるよう設計されており、借入のために差し入れる担保提供可能な資産を十分に持たない中小企業が新たな資金調達方法として活用できるため、早くも商工会議所を始めとする中小企業者団体から大きな期待が寄せられています。

「手形」機能と「振込」機能

 これまでも、企業間信用は、中小企業にとって重要な資金調達方法の1つでした。

 例えば、その1つである「手形」は、印紙税負担や保管コスト、および紛失・盗難リスクなどの多くの問題を抱えており、バブル崩壊後は、振出企業である大企業が、コスト削減やリスク軽減に積極的に取り組んできた結果、手形の発行枚数は年々減少し、代わりに「振込」(期日現金払い)が増加してきました。

 また「手形」は、代金債権の決済手段としての機能を持つだけでなく、中小企業にとっては、手形割引などの資金調達手段であり、かつ廻し手形などによる代金債務の決済手段でもありました。

 一方の「振込」は、指名債権ゆえに外部から見た債権の存在自体あいまいで、二重譲渡や債務の不存在などの問題も抱えるため、中小企業にとっては、資金調達への活用は容易ではありません。結果的には、決済方法が「振込」に移行することによって、中小企業は、振込期日に資金が実際に振り込まれるのを待つか、あるいは金融機関から必要な運転資金を借入し、資金繰りを立てるしか、現金を手に入れる選択肢がなくなりました。

 資金繰りを立てたい中小企業は、相対的には信用力が低いケースでは、運転資金を借入するための不動産担保や保証が必要とされる場合もありますが、中小企業は、十分な不動産等を有しているとは限らず、必要な時に、必要な額を必ずしも調達できないという事態が発生していました。つまり、企業間の決済構造が変化した結果、中小企業の資金繰りは、厳しさを増すという想定外の副産物が生まれたということになります。

 こうした企業間決済の構造変化に対応するため、電子記録債権制度が検討されたのです。

 電子記録債権は、仕組み上、「手形」としての機能と「振込」としての機能を併せ持つ第3の金銭債権と位置づけられています。電子記録債権は、支払企業(主として大企業)にとっては、印紙税負担が無く、保管コストが低く、紛失・盗難リスクも低い支払手段です。一方の納入企業(主として中小企業)にとっても、代金債権の受取り手段だけでなく、不動産担保や人的保証に依存しない資金調達手段としても活用できるため、支払企業・納入企業いずれにもメリットがあります。電子記録債権を積極的に活用することで、中小企業が直面する資金調達の構造的な問題を解決することが期待されています。

提供:株式会社TKC(2009年3月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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