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いよいよ今年10月に「日本政策金融公庫」がスタートします。中小企業金融公庫、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行の4つの公的金融機関が統合されて、“株式会社”として開業します。株式会社のガバナンスの仕組みを活用して、透明性の高い運営が行われるようですが、統合前の各金融機関が担ってきた業務は、今後とも引き継がれます。
株式会社といっても、国が株式の全部を常に保有することを法律で定めており、完全に民営化するのではなく、公共性の高い政策金融を担うということです。ただし、政府の進める行政改革の一環として「小さな政府」「官から民へ」「公務員改革」の流れに沿って、効率化が図られることになります。同時に、公的な融資を通じて地域経済を活発化していくための役割も求められています。
日本政策金融公庫は、このような時代の流れに沿った活動が期待されますが、統合によって、主なユーザーである中小企業に何か影響があるのかといえば、それはないと見ています。
中小企業は、主に中小企業金融公庫や国民生活金融公庫から「定型貸出」の形で資金調達を行っています。定型貸出とは、貸出条件が一般に開示され皆に知らされているものであり、普通の営業活動を今後とも続けようとする企業であるならば、ほとんど借入れができます。
貸出条件は、設立期間・自己資本状況・貸出金額・貸出期間・毎月返済額・資金使途・貸出金利・担保などであり、これらはそれぞれの公庫等の本部で決められています。したがって、融資を申し込む中小企業は、これらの条件に合致するか否かを前もってチェックすることができます。
しかし、民間金融機関では一般的に、そうした貸出条件は開示されていません。また、企業格付けにおけるスコアリング審査の内容も、公開されていないのが実態です。その点、中小企業金融公庫・国民生活金融公庫などの貸出は公平・公正で透明性があり、それは日本政策金融公庫に統合されても変わりありません。
このように4つの金融機関が統合されても、その一本一本の貸出条件は原則従来のままで不変ですから、一般の中小企業には何ら影響はないでしょう。
経営承継に対する金融支援
それでは、最近話題になっている中小企業の経営承継の貸出についてはどうかといえば、今年5月に成立した「中小企業経営承継円滑化法」に基づいて行われることになります。ただし、経済産業大臣の「認定」を受けなければなりません。
民間金融機関の場合は、新経営者(後継者)の経営手腕が不明であったり、今後の経営計画の見通しが不確実であったりする場合は、こうした貸出はなかなかできないと考えられます。しかし、日本政策金融公庫の場合は同法に基づき、資金使途が経営承継資金と明確であり、他に公表されている条件もクリアされれば融資を受けることができます。その意味で、10月からスタートする日本政策金融公庫は、地方銀行や信用金庫など民間金融機関では融資ができにくい部分をカバーします。「民業補完」を行うということです。
このため、中小企業としては、日本政策金融公庫の貸出条件をよく把握して、自ら条件チェックを行って、これまでの中小企業金融公庫・国民生活金融公庫などと同様、利用することをお勧めしたいと思います。
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