Q&A経営相談室
【危機管理】
新型インフルエンザに備えるには
 
Q:
 新型インフルエンザがいつ発生してもおかしくない状況にあるといわれています。事業継続のためにはどんな対策が必要なのでしょうか。(運送業)
 
<回答者>東京海上日動 リスクコンサルティング 主席研究員 茂木寿

A:
 人が感染するインフルエンザウィルスは、日々変異を繰り返していますが、数十年に一度の割合で、大幅な変異を遂げます。これが新型のインフルエンザです。この新型インフルエンザについては、人類が一人として免疫を持っていないため、一度感染が拡大した場合には、世界的な大流行(パンデミック)となります。

 20世紀においては、大規模なものとして、過去3回、新型インフルエンザが発生しています。例えば1918年から19年にかけて、世界的な大流行となったスペイン・インフルエンザでは、1918年3月に米国での発生が確認され、その約2ヵ月後には、欧州で感染が拡大しています。当時の船による移動がほとんどであった時代に、2ヵ月で欧州全域に感染が広がったことは、現代における航空便の普及を考えると、非常に短期間に全世界に感染が広がる可能性を示唆しています。

ゴーグル・簡易防護服の着用

 現代社会では、「人・もの・金・情報」が瞬時に移動する社会となっており、その相互依存の度合も、1918年当時とは比べものになりません。そのような状況で、一旦世界的な大流行が発生した場合、政治・経済・社会のあらゆる側面に極めて甚大な影響を与えるのは確実となります。特に、新型インフルエンザが直接的に影響を与えるものが、人的被害であるいう点は、企業における事業継続を危うくする要素ともなっています。そのため、新型インフルエンザ対策は、人の安全、つまり従業員への感染防止対策が最大の要素となります。例えば、次のようなものが挙げられます。

▽従業員・家族に対する新型インフルエンザ予防等についての啓蒙・啓発(例:パート社員等を含めた全従業員及び家族に対する啓蒙・啓発のための小冊子の配布等)

▽出勤時・帰宅時の対策(出勤前の家族全員の検温・時差出勤の励行・N95マスク着用の励行等)

▽勤務時の対策(事務所内に入る前の検温・うがいの励行・手洗いの励行・咳のエチケット・座席の2m以上の間隔確保・サージカルマスクの着用の励行等)

▽予防品の備蓄(N95マスク・サージカルマスク・うがい薬・石鹸・消毒液・体温計・簡易防護服・体温計・ゴーグル等)等々

 一方、事業継続においても、基本的には従業員への感染防止対策の延長線上となります。例えば、運送業においては、新型インフルエンザの感染が拡大した場合、一般市民が外出を控えるため、需要が増大することが見込まれます。また、病院等の感染する可能性の高い施設等への配送等も増加すると思われます。そのため、配送等に携わる従業員等には、ゴーグル・簡易防護服を着用させる等が不可欠となります。

 また、新型インフルエンザにおいては、一度感染した人が回復すると免疫ができ、理論的には同じインフルエンザに感染しません。つまり、新型インフルエンザから回復した従業員は、二度と感染しないことになり、それらの従業員が事業継続の根幹を形成することにもなります(ちなみに、日本政府の想定でも致死率は最大2%であり、感染しても98%は治るとされている)。

 そのため、感染が始まった際には、従業員の勤怠状況(従業員本人・家族の感染・回復状況、出社の可否等)の把握が、事業継続上、非常に重要となります。一部企業の中には、災害時に使用する安否確認システム等を新型インフルエンザの勤怠状況把握に利用することを検討しているところもあります。

提供:株式会社TKC(2008年10月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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