Q&A経営相談室
【賃金政策】
中小企業の夏季賞与の相場は
 
Q:
 加工食品の製造・卸業を営んでいます。最近、原材料費が高騰し、黒字にするのがやっとの状態です。が、何とか今年も夏季賞与を出したいと思っています。世間相場はどれくらいになりそうか教えてください。(加工食品業)
 
<回答者>みずほ総合研究所 経済調査部シニアエコノミスト 井上淳

A:
 今年の夏のボーナスは、前年に続いて減少することが見込まれます。昨年度の冬のボーナスも減少しましたので、今夏のボーナスが減少することになれば、夏、冬、夏と3回続けて前年の水準を下回るということになります。

 皆さんの中には夏のボーナスを期待されていた方もいらしたかもしれません。確かに厚生労働省の発表する統計では、賞与の算出基準となる所定内給与(基本給相当)が今年1−3月期は前年比プラス0.8%と増加に転じています。

 ただ、それがボーナスの増加に直結するとは考えづらいのが実情です。1−3月期の鉱工業生産が4.4半期ぶりに前期比マイナスになるなど、景気動向は「踊り場」の状態にあります。失業率は3.8%で高止まっており、雇用者数も1−3月期には前年比ゼロ%と伸び悩んでいます。新規求人数の減少が続いていることから、企業の採用意欲は低下していることが窺え、当面は雇用情勢の軟化が続くとみられます。

 また、昨年度下期の企業収益は前年比マイナスになることがほぼ確実と予想されます。

 こうした状況を考えると、企業の賃金抑制姿勢は今後も続くとみられます。そして、賃金の抑制はボーナスを通じて行われるという構図が強まってくるのではないかと予想されます。

 企業はこれまで平均賃金を抑制する手段としてパートや派遣社員を活用するといった、雇用形態の多様化を進めてきましたが、すでにパート比率は2007年時点で約26%(「毎月勤労統計」ベース)にまで上昇しており、今後もこれまでと同じペースでパート化を進めていくことは難しくなりつつあります。また、今年4月に施行された改正パートタイム労働法への対応から、パート労働者の正規雇用化が図られれば平均賃金の押し上げ要因になります。

 減益のなかで平均賃金が上昇し、パート化による上昇圧力の緩和も望めないとすれば、それだけボーナスの抑制圧力が増すことになるでしょう。人件費を抑制するために多くの企業が支給月数を減らして一人当たりの賞与額を減額することが予想されます。

 以上のようなことから、みずほ総合研究所では民間企業(事業所規模5人以上)の1人当たりボーナス支給額を前年比マイナス2.3%の39万8101円と予想しています。

 中小企業(事業所規模5〜29人)に限れば、前年比マイナス3.3%の28万4324円と、全体を上回る減少幅になるとみています。大企業に比べ価格交渉力の劣る中小企業では、原材料価格の上昇によるコスト増や人件費負担の増大を価格に転嫁することができず、企業収益をよりいっそう圧迫するとみられるからです。

 実際、中堅企業まで含めた従業員数500人未満企業では厳しい状況が続いています。昨年の夏と冬の2回のボーナスは、従業員数500人以上の大企業が前年比プラスであった一方、従業員数が500人未満の中堅・中小企業では前年比マイナスとなっています。業種も製造業、非製造業を問わず減少しています。収益環境がより厳しい中堅・中小企業でボーナスを通じた人件費抑制スタンスが強い様子が窺えます。

 
提供:株式会社TKC(2008年6月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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