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今年の賃上げについては、昨年末まで積極的な賃上げ論が主流でしたが、年明けからの経済失速懸念で一転消極論も出始まり、例年より予想しがたい状況です。しかし、従業員100〜299人の中小企業に焦点を当てて予想すれば、賃上げは1.8%(5160円)程度になるものと考えられます。
賃上げの決定要素を大胆に分けると3つあります。
1) まず世間相場です。今年の春闘では各労働組合が例年より強気の要求を出しています。また業績好調企業が順次妥結するにしたがって世間相場が固まっていきます。しかし、日を追って世界的な景気後退が明らかになりつつあり、年末年初ごろ立てた強気の賃上げは実現しそうにありません。
2) 次に物価動向です。この点は今年も積極的に賃上げを後押しする材料になりそうもありません。一部食料品や石油価格が上がっていますが、いまだデフレから脱したわけではないのでベ・アが必要な状況にはほど遠いと言えます。むしろデフレ下の物価高騰が始まれば、各企業は原材料費や流通コストの上昇に対応しなければならなくなる懸念を抱えているので、人件費はこれからも出来るだけ抑えるべきとの方向に春闘の行方は流れているように見えます。
3) 最後に自社の営業見通しと支払い余力です。賃上げをして月例給が上昇してもそれを賄ってなお目標利益が確保出来るかが経営者判断の分かれ目です。実際中小企業の70%が赤字の実態では、積極的に賃上げを実施する強気の企業はあまり多くはないと思われます。また、経営者の70.7%が自社の経営業績をもとに独自に判断すると答えており、新聞などで大手や業績好調な企業の速報が目に留まってもそれによって判断が振り回されることはないと、答えています。以前のような春闘における業界横並び意識は相当程度払拭されてきていると言えます。
これまで述べたことを背景に、さらにいくつかの数字を元に1.8%の予想が行われました。ひとつは昨年との比較。労使交渉には連続性があり、昨年の賃上げ背景との比較が論じられる世界です。厚労省の「2007年賃金引上げ等の実態に関する調査(以下「調査」)」によると、従業員規模100〜299人の企業で2007年度の一人当たり平均定昇率は1.6%(加重平均4053円)、2006年で1.5%(同3612円)でした。全規模を対象にした数字ですが製造業は2007年度賃上げ率1.8%(加重平均5068円)、2006年度1.6%(4676円)、これは他産業と比べても平均的な数字です。
さて、最後に今年の賃上げにあたり経営者の皆さんに参考にしていただきたいことをまとめると、まず自社の経営見通しと支払い余力を最重要視するということです。実際、賃上げ情報は賃上げを実施した企業を対象にして集計したものであり、予測も実施する企業の場合を想定しているのです。2007年度を見ても賃上げを実施した企業は中小企業のうち82.7%で、実施未定または実施しないとする企業が17.3%、約6社に1社あるのです。2つ目は賃金に関する統計資料を利用する時に、自社の賃金レベルなどをそれに合わせようとする発想を持たないようにすることです。統計に合わせることで自社の賃金やひいては会社としての魅力が平凡になることを意味するからです。
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