Q&A経営相談室
【労務管理】
通勤手当の不正受給を防ぐには
 
Q:
 通勤手当の不正受給が目立っています。不正の起こらない仕組みづくりを教えてください。(サービス業)
 
<回答者>社会保険労務士 山本礼子

A:
 労働基準法では、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と規定されています。支給基準が定められている通勤手当または定期券などの通勤費は、労働基準法上の賃金にあたります。

 通勤手当の支払い方法や支給額は、労働基準法では制限や義務の規定がないので、支給するかしないかは会社の自由裁量です。支給する場合の額の上限は、所得税法上で非課税の範囲で2〜5万円を上限とする会社が多いようです。

 就業規則や給与規定などでは、通勤手当の支給要件として「公共交通機関を利用する者に、自宅から会社まで運賃・時間・距離からみて、最も合理的で経済的な経路による定期乗車券購入実費を支給する。(1ヵ月上限は5万円)」というような支給基準を規定します。

 バス利用については、実際は利用していないのに通勤手当として申請をされるケースもあるため、通勤手当の規定の中に「バス利用は、自宅と最寄駅の直線距離が2キロ以上である場合のみ認める」といった支給基準を設けるとよいでしょう。

 また、運賃・時間・距離からみて、最も合理的で経済的な経路かどうかを判定するためには、社員から入社時および住所変更時に「通勤手当支給申請書」を提出してもらって判断をします。この申請書には、通勤経路と通勤定期代、変更日を記入してもらいます。インターネットで所要時間や通勤定期代の検索は簡単に可能ですので、人事総務担当者がチェックを行います。これにより、不正な遠回りの申請は防止できます。

 なお、通勤経路が2つあり、通勤所要時間が大して変わらない場合、通勤定期代の安い方の経路を会社が指定する、ということも可能です。

 実際はマイカー通勤をしているのに公共交通機関での定期代を申請する、または自転車通勤をしているのに公共交通機関での定期代を申請するという不正は、通勤定期券のコピーを提出させ、実際に通勤で公共交通機関を利用しているかどうかを確認するとよいでしょう。

 マイカー通勤を認める場合には、交通事故防止のためにもマイカー通勤規定の作成をお勧めします。自転車通勤を認める場合には、「直線距離が3キロ以上である場合のみ認める」などの規定を設けるとよいと思います。

 不正受給が発覚した場合には、過払い分を遡って返金してもらうことが可能です。この場合、賃金の過払いにあたりますので、賃金控除に関する労使協定の規定があれば、給与から過払い額を控除することができます。時効については民法の適用となり、過去10年分まで遡って返還請求が可能です。

 さらに、虚偽申告による給与の不正利得は就業規則違反となりますので、懲戒処分として不正の程度に応じて、始末書を提出させる、減給するなどの処分を検討するとよいでしょう。

 なお、「通勤手当支給申請書」の適正な運用によって不正はチェックができると思いますが、通勤災害が起きた時、労災保険法の認定となる通勤は、会社に届け出ている経路と一致しているかどうかではなく、一般に労働者が用いると認められる合理的な経路および手段等であるかどうかで判断がされます。

提供:株式会社TKC(2008年3月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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