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“風が吹けば桶屋が儲かる”ふうに言うならば、「新BIS規制が導入されると、中小企業向け融資への金融機関の対応はかなりメリハリがついてくる」はずです。
途中経過を詳しく話すとこの問題は本が1冊書けるくらいです。
“桶がネズミに食われると売上が増えるので、桶屋が儲かる”というこの喩えの結末あたりを話せば、「金融機関が中小企業の格付け評価を一層厳格に行って、貸出ごとに新BIS規制に沿った引当金を積上げる。金融機関としてそれは費用がかかるので、格付けの低い先への貸出を絞り込むようになる。したがって中小企業向け融資は、格付けの高い先にはどんどん貸込まれるが、一旦格付けが下がるとその貸出先への返済・回収圧力が強まるようになる」という筋書きになります。
また、中小企業にはもう一つアゲンストの風が吹いています。今、日本の600弱の地域金融機関がラストスパートをかけている「地域密着型金融推進計画」という金融庁の施策があります。この計画の期限は来年3月末で、新BIS規制の開始日と同日です。しかも、この計画には「事業再生中小企業金融の円滑化」という大きな柱があり、これは各地域金融機関が中小企業貸出に対し厳格に引当金を積上げ、格付けによって貸出姿勢にメリハリをつけるものなのです。
このように、2つの大きな施策が来年3月末に重なっており、地域金融機関は今後数ヵ月間、中小企業貸出に対する個別の引当金積上げに邁進するものと思われます。
当然、中小企業には対策が必要です。それをしないと、今後は金融機関との安定した取引関係を維持できなくなります。
対策の一つは、銀行の格付け評価の定量分析項目や定性分析項目の引上げに努力することです。もう一つは、自社の格付けが下がってしまった時、金融機関自身が金融庁などから引当金積上げを迫られないようにする対策です。これは、自社の資産内容を見直して担保に入れられる資産があるかどうか、また毎月の返済額を多少増やすことができるかどうか、などを考えておくことです。
さらに、この新BIS規制の精神を、もう少し突っ込んで考えるならば、中小企業も自己資本比率の引上げがやはり必要であるということです。
新BIS規制は「自己資本比率」の高い金融機関にそのインセンティブを与えていますが、金融機関としては煎じ詰めれば、引当金の積上げ負担の少ない、「自己資本比率」の高い財務内容良好な企業に貸出取引を求めることになります。つまり企業も、投資家から直接に資金を調達する「直接金融」の太いルートを持たなければならないということです。
それには、中小企業も「社債」や「増資」などの資金調達を検討しなければなりません。今年5月に施行された新会社法で、中小企業でも社債や増資はかなり導入しやすくなりました。今後は、種類株式や剰余金分配などで資金調達が容易になり、その資金調達の前提になる投資家への情報開示も、機関設計や計算書類の整理によってより簡単になります。
したがって、新BIS規制導入後の中小企業に必要なことは、短期的には「自社の借入に対し、金融機関に必要以上の引当金を積まさせないことであり、そのために自社の格付けアップを図ること」、また中長期的には、「自助努力で高い財務内容の企業になって、直接金融から自由に資金調達を図ること」がやはり大切であると思われます。
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