Q&A経営相談室
【法  律】
「能力不足」を理由に解雇できるか
 
Q:
 著しく成績不良の社員がいます。「能力不足」を理由に解雇することはできるのでしょうか。(建設業)
 

<回答者>弁護士 石井妙子

A:
 結論からいえば、まったく不可能というわけではないのですが、いくつかの条件があります。
 まず知っておいてほしいのは、「解雇権濫用法理」の存在。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定める労働基準法18条の2のことです。この解雇権濫用法理によって、就業規則にある解雇理由に該当したとしても、それだけでただちに解雇が有効になるというわけではなく、解雇の効力が厳しくチェックされることになります。
 つまり解雇には、客観的・合理的理由と社会的相当性が必要となるわけです。しかし、それだけでは基準として抽象的。結局、ケースバイケースということになりますが、とりわけ能力不足を理由とする解雇については、1.解雇理由である能力不足が著しいこと、2.解雇にいたるまで使用者として雇用維持の方向でできる限りの対応をしたこと、の2点がポイントとして判断されます。
 エース損害保険事件(東京地裁平成13年8月10日)において裁判所は、成績不良の正社員を解雇する場合は、「それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること」を要するとしました。つまり、よほどの能力不足でなければ解雇はできないということです。
 さらに同判決は、能力不足の程度のみならず、解雇にいたるまでの使用者の対応がどうだったかを問題としています。具体的には、「指導・注意をするなど改善の機会を与えたかどうか」、あるいは他の業務に適性があるのではないかという観点から、「解雇の前に配置転換を検討したか」「使用者側の対応に労働者側が反発するのもやむを得ないというような事情がないか」などを考慮すべきだとしました。

改善指導書で証拠を残す

 能力不足で解雇をする場合は、具体的な事実関係を把握しておくことが必要になります。抽象的に能力不足、成績不良といっても、部外者である裁判官等には通じません。「職場ではどういう水準が要求されているのか」「他の従業員と比較してどうなのか」「業務にどんな支障があったのか」という点を具体的に押さえておくことが必要です。また、会社側が指導・注意をしたという点の記録も残しておいてください。折に触れて「改善指導書」などの書面を通じて証拠を残しておくことも求められます。
 なお、いくら指導・注意していも改善されず、かえって反抗するだけとなると、上司のほうで指導する気力が失せてしまう場合もあります。しかし、そうなると指導もせずに解雇したということになりますので、根気強く指導・注意を続けることが重要です。ただし、やりすぎてパワー・ハラスメントなどということになると、今度は対応に問題があるとされることになるので、そのさじ加減に要注意です。
 また、前述の判例の通り、解雇の前に配置転換を検討したかどうかも考慮されます。ただし、無理な配転、嫌がらせととられかねないような配転ではかえって解雇権濫用法理の判断の際にマイナスに作用しますので、これも要注意です。
 最後に、解雇に際しては、労働基準監督署の除外認定を受けないかぎり、30日前の予告か、あるいは解雇予告手当が必要ということも知っておいてください。能力不足を理由とする解雇の場合も例外ではありません。

提供:株式会社TKC(2006年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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