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市場化テストとは、「官民競争入札」とも呼ばれ、行政が実施する様々な公共サービスを対象に官と民がコストやサービス品質の両面で競い、優れた方が落札して業務を行う仕組みです。
これに類似した手法の「民間委託」は、行政以外の組織に委託することを前提に進められますが、市場化テストは、定められた評価基準に則り受託者が決定される仕組みのため、官民のどちらにも受託チャンスが生まれるという点で異なります。
また、契約内容にもよりますが、通常は一定期間の契約となるので、更新時には改めてテストされ、継続的に品質の向上・改善やコスト削減努力をしていないと再受託はできない仕組みになっています。
一般的な流れは、次の通りです。
1.民間に委託可能な事業や業務の選定
2.市場化テストに参加する企業の公募
3.サービスの質とコストを総合的に判断した官民競争入札の実施
ちなみに、行政改革が進んでいる米国では、10年ほど前から定着している手法で、成功例で有名なインディアナポリス市では、下水処理、ごみ収集、道路の維持・管理等で成果をあげています。例えば、下水処理施設の運営管理では、民間側が受託した結果、5年間の契約で総額44%のコスト削減、処理後の川の水質改善、事業に従事した市職員の削減(328人→176人)、受託先へ移籍した職員の処遇の向上、現場での事故件数70%減少、等様々な効果が表れています。
同市のケースでは、市の職員(部局)側が受託した案件比率は、競争入札件数全体の25%、民間企業との共同受注20%となっています(出所:Indianapolis Experience)。
市場化テスト導入による効果には、次の3点が挙げられます。
1. |
行政側のコスト・人員の削減 |
2. |
適用分野で「民間との競争環境」にさらされることで本質的な行政経営改革につながる |
3. |
適用範囲の拡大に伴う、官製市場の開放、民間(市場)への新たなビジネスチャンスの提供 |
現在、国レベルで導入対象に想定している分野は、公共職業紹介、社会保険料、統計、印刷、刑務所運営、交通警察など限定的ですが、地方自治体レベルでは、福祉サービス、下水処理、ごみ収集、公共施設や道路の維持・管理など、広範囲の業務が対象になると考えられます。また、従来の外部委託方式は、現行法の枠内に限定しているので、委託の対象にも制約がありましたが、市場化テストでは、既存法の制約を受けない新法を制定することが検討されているので、適用範囲の拡大によりビジネスチャンスが一気に広がる可能性を秘めています。
一方で本格的に導入されるに当たり、次のような課題も指摘されています。
1. |
官民のコストを公平・適正に比較する仕組みが必要 |
2. |
価格競争に陥り、サービスの質を低下させないようにする(特に、教育や福祉の分野 |
3. |
民へ移行する事業に就いている公務員の処遇 |
法律施行後、競争入札に参加するためには、企業側も審査の対象となる業務のコストとサービス水準を明確にしておくことが前提で、継続的に受託するためには、その水準を常に行政より高い水準で維持しておくことが求められます。ただ、これまで行政はコストを度外視してサービス提供してきた経緯がある点留意しておく必要があります。
また、場合によっては事業に従事していた公務員を引き継ぐことも想定されますが、その際の受入(雇用)条件の整備なども念頭に置いておくことが必要だと考えられます。
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