Q&A経営相談室
【情報管理】
派遣社員と秘密保持契約を結ぶ際の留意点
 
Q:
 派遣社員との間で秘密保持契約を結ぶことを考えています。「秘密保持誓約書」を取得する場合の留意点などを教えてください。(事務機メーカー)
 
<回答者>栄光綜合法律事務所  弁護士 川村和久

A:
 外部に流出してしまうと多大な損害を被る恐れのある「営業秘密」。不正競争防止法によってその保護を受けるためには、「秘密管理性」の要件を満たす必要があります。つまり企業内において適切な秘密管理が行われていることが前提となるのです。その判断にあたっては、個々の従業員との間で保護されるべき秘密の範囲を明確に特定した適切な「秘密保持契約」が締結されていたかどうかが重要な判断要素とされます。
 この点、正社員の場合であれば、「就業規則等において秘密保持義務を規定すること」に加え、入社時や特定のプロジェクトへの参加時等において「保護されるべき秘密の範囲を明確に特定した誓約書の提出を個別に受けること」で適切な秘密管理が図れます。しかし問題は、派遣社員の場合です。社内の新しい業務システム用ソフトの開発のために技術者の派遣を受ける場合など、派遣社員といえども企業の重要な営業秘密に接する機会は増えています。この場合、適切な秘密管理の必要性は正社員と全く異なりません。
  ここで問題になるのは、「労働者派遣」という契約形態です。労働者派遣においては、労働者はあくまで派遣元が雇用する従業員であり、派遣先は派遣元との間の労働者派遣契約に基づき当該労働者に対する指揮命令権を取得するに過ぎず、直接の雇用関係はないのです。そのため、派遣先の就業規則が適用されません。労働者派遣契約において秘密保持義務が規定されることも多いのですが、これはあくまで派遣元が派遣先に対して負う義務にとどまり、派遣社員に派遣先に対する直接の秘密保持義務を負わせるものではありません。さらに、このような規定の多くは契約雛形を利用した概括的一般的規定に過ぎず、当該派遣社員において秘密の客観的認識可能性がなかったという理由から保護を受けられないリスクが残ります。

「秘密保持誓約書」の必要性

 そこで派遣先としては、派遣社員から直接「秘密保持誓約書」の提出を受けておくことが有用といえます。つまりこれによって、派遣社員が派遣先に対して直接秘密保持義務を負うこととなりますし、なおかつ派遣先と派遣社員との間で保護されるべき秘密の範囲を明確に特定して認識の共通化を図ることが可能となります。同時に、秘密漏洩の防止について派遣社員の自覚、注意を促すという事実上の効果も期待できます。
 とはいえ、派遣先が派遣元に無断で派遣社員から直接誓約書を取得することは労働者派遣法の趣旨から好ましくないという見方もあります。そこで、このような秘密保持誓約書を取得する前提として、派遣元との間の労働者派遣契約のなかで、派遣先が派遣社員から秘密保持誓約書の提出を求めることができる旨の規定を設けておくことが求められます。
 秘密保持誓約書の内容としては、正社員の場合と同様、(1)対象となる秘密情報の範囲、(2)秘密保持義務及び付随義務の内容、(3)例外規定、(4)秘密保持期間、(5)義務違反の場合の措置などといった項目を規定することになります。 特に(1)については、前述のとおり、「職務上知り得た秘密事項一切」などといった概括的一般的な内容ではなく、情報のカテゴリーや保存媒体等を示すなどして、保護されるべき秘密の範囲をできる限り明確に特定しておくことが重要です。なお個人情報保護法の観点からは、ここであわせて、個人情報の非開示義務を規定しておくことも有用といえるでしょう。

提供:株式会社TKC(2005年11月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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