Q&A経営相談室
【販売戦略】
外食産業における「原産地表示」の動き
 
Q:
 外食産業における「原産地表示」の動きが出ているといいます。自分の店でもはじめようと思っているのですが、留意点を教えてください。(レストラン)
 
<回答者>日本フードサービス協会 千葉国雄

A:
 BSEや食品の偽装・虚偽表示などにより、消費者の食に対する信頼が揺らいでいるなか、外食産業のなかにも食材の「原産地表示」を積極的に行おうとする動きが出始めています。そうした背景のもと、今年7月に農林水産省では外食産業団体と共同して、「外食における原産地表示に関するガイドライン」を作成しました。自分の店でも新たに原産地表示をはじめようと思うのなら、まずはこのガイドラインを参考にすることを推奨します。
 ガイドラインでは、(1)メニューの主たる原材料(ステーキの牛肉など、メニュー構成を決定するもの)、(2)メニュー名に用いられている原材料(チキンソテーの鶏肉など)、(3)こだわりの原材料(旬の松茸など)における原産地の表示方法の基本的な指針を示しています。
 例えば、各メニューごとに原産地を表示する方法、「ハンバーグに使用している牛肉はオーストラリア産、豚肉はアメリカ産です」とメニューのジャンルごとに原材料の原産地を表示する方法、さらにメニューブックの巻末等に「野菜は国内(長野、茨城、千葉)の契約農家から、豚肉はアメリカ、デンマークから仕入れています」と原材料ごとにまとめて原産地を表示する方法を提唱しています。
 ただしガイドラインに法的な拘束力はなく、外食事業者それぞれの実情に応じた自主的な取り組みを求めています。あくまでガイドラインを参考に、各社・各店舗の創意工夫で表示していけばよいのです。それが店舗の特徴を引き出すことにもなります。
 表示の仕方についても、メニューブックに限らず、パネル、ボード、パンフレット、冊子、ホームページなど様々な方法があります。とはいえ、曖昧な表示や誤認させるような表示は、逆に消費者の不信感を募らせる結果となるので注意すべきです。そのためにも仕入先から確かな産地情報を入手し、扱う食材についての情報をきちんと管理しておくことが重要となります。

他店との差をつけるのに有効

 スーパーなど小売店や加工業者は「JAS法」の定めにより、すべての生鮮食品のほか、乾燥野菜など生鮮状態に近い加工食品に「原産地・原産国」の表示をしています。それに比べて外食のメニューは、多種多様の食材を混合して使用することが多く、同じ食材でも複数の産地のものを使っていたり、メニューの入れ換えが頻繁に行われるなど、原産地表示は簡単ではありません。
 にもかかわらず、原産地表示をはじめる外食企業が徐々に現れてきたのは、「食の安全」を求める消費者の信頼獲得だけでなく、生産者・サプライヤーとのパートナーシップの強化、従業員のモチベーション向上などの狙いもあってのことです。まさに、そうした考えのもと、積極的に原産地表示に取り組んでいる1社が、グリル料理とサラダバーを提供する『シズラー』です。「本日の素材」と題するボードを用いて、その日に使用する肉類、野菜類など各種素材について原産国・産地(仕入先社名・生産者名)を表示しています。また、主要メニューであるグリル素材については、メニューブックに産地や生産者についての詳細情報を掲載しています。
 シズラー以外にも、店内の黒板とホームページで生鮮野菜の産地を紹介しているモスフードサービスなどの事例がありますが、こうした取り組みは中小飲食店でも行うことができます。「扱っている野菜はすべて地元農家のものです」と表示するやり方でも、顧客に対して有効なアピールになるはずです。また、原産地表示と併せて栄養成分表示やアレルギー表示なども実施していけば、ライバル店に大きな差をつけることができるでしょう。(インタビュー・構成/吉田茂司)

提供:株式会社TKC(2005年10月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
戻る ▲ ページトップへ戻る