Q&A経営相談室
【役員報酬】
望ましい役員報酬の決め方とは
 
Q:
 社長の月額報酬は何を基準にして決めるのが望ましいのでしょうか。また、当社は金属製品を製造する年商3億円規模の会社ですが、同業他社の水準も教えてください。(金属製品業)
 
<回答者>税理士 仲川勝利

A:
 役員報酬の決め方には大別して二通りあります。一つは「形式基準」、今一つは「実質基準」です。
 まず形式基準というのは、「法的」に役員報酬の限度額を設定することを指します。それは、取締役は株主から委任を受けてマネジメントを行っているからです。具体的には、(1)あらかじめ定款で役員報酬の限度額を定めておく場合と、(2)株主総会でその都度役員報酬の限度額を決める場合――の二通りがあります。限度額は役員報酬の総額を指し、社長など個々の役員の報酬については取締役会で決定されます。
 税務調査が行われたとき、この形式基準に則って役員報酬が支払われているかどうかチェックされることがあります。仮に社長の月額報酬を100万円と定めているのに、実際には120万円支払われていれば、差額分の20万円は否認されます。利益操作と見なされるからです。ただし形式基準より「下げている分」にはかまいません。

経営計画に基づき報酬を決める

 一方、実質基準というのは、業績や世間相場などに基づき実質的に役員報酬を決めることです。その際、中小企業で比較的多いのは、経営者自身の生活費に基づいて月額報酬を決めているケースです。会社の収支を考えると、本来なら例えば月額80万円が限度なのに生活費が100万円かかるからといって、100万円にすれば20万円が赤字になります。赤字になればキャッシュが足りなくなり、結局、銀行から借り入れることになるでしょう。それは、自分の生活費を会社の借金で賄っているということにほかなりません。これではよくないわけですが、中小企業の現場では多く見受けられます。
 最も望ましいやり方は、次期の経営計画(予算)に基づいて役員報酬を決める方法だと思います。例えば次期の予算を作成するにあたり、「売上100」「変動費45」「固定費55」とすれば、「経常利益はゼロ」になります。このとき「(固定費のなかの)役員報酬が9」であれば、9が役員報酬の限度額ということです。
 しかし、経常利益がゼロでは、外部から高い評価を得ることは難しいでしょう。昨今、金融機関では「企業格付け」を行っており、経常利益が出ていなければ返済能力は脆弱と見られ、借り入れが思うようにできなくなる恐れがあります。そこで、経常利益を当初の予算案ゼロから3ないし5に上げようとすれば、売上を増やすか、それとも変動費・固定費を抑えるかになりますが、役員報酬で調整するのが最も現実的な手法といえます。つまり、この場合であれば役員報酬を9から6に引き下げれば、経常利益を「3」にすることができます。

 また、その際、同業他社の水準(世間相場)を参考にして役員報酬を決めるといいと思います。税務上で同業他社と比較してチェックされる場合があるからです。例えばTKCでは『月額役員報酬・役員退職金(役員報酬BAST)』を毎年出版しており、世間相場を知るにはこれが最適でしょう。最新の平成16年版の場合、調査収録法人は12万6000社、役員数は25万5000人に及びます。
 例えば、ご質問者のように、金属製品製造業で売上規模が3億円の場合、役員報酬BASTによれば「売上規模2.5〜5億円の場合、社長の月額報酬は116.4万円」です。因みに、売上規模が「5〜10億円の場合は144.6万円」です。
 いずれにしろ、役員報酬の決め方を見れば、その会社のトップの「経営哲学」がよくわかります。
(インタビュー・構成/『戦略経営者』・岩崎敏夫)

提供:株式会社TKC(2005年9月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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