Q&A経営相談室
【法  律】
改正介護保険法の中身と注意点
 
Q:
 今年6月に改正介護保険法が成立しましたが、その具体的な内容と、介護サービス事業に新規参入するにあたっての注意点を教えてください。(建設会社)
 
<回答者>社会保険労務士 井戸美枝

A:
 介護保険、医療保険などの社会保険は5年おきに制度上の見直しを行うことが決められています。介護保険は2000年4月に施行されましたので、昨年度から改正の議論がなされ、今年6月改正介護保険法が成立しました。
 厚生労働省としては、制度改正にあたっては「被保険者と受給者の拡大」が最大の目標だったようです。介護保険では40歳以上が被保険者ですが、これを20歳以上にする一方で、介護サービスが受けられる範囲を「老化による」だけでなく、障害者も含めて利用できる制度改正を目指しました。
 しかし、この被保険者と受給者の拡大に関しては介護保険のみならず、社会福祉にも大きな影響を及ぼすため、継続議論となりました。

4大改正ポイント

 それでは、今回の改正点を詳しく見ていきます。第1は給付の効率化・重点化。具体的には、総合的な介護予防システムの確立と施設給付の見直しです。総合的な介護予防システムとは、例えば筋力向上トレーニング、閉じこもり予防など要支援、軽度要介護者を対象とする新たな介護予防給付というシステムを導入することです。
 施設給付の見直しは、例えば在宅利用者が負担している光熱水道費、食費や居住費などについて施設給付の範囲や水準の見直しを行い、個室などの個別ケアの推進を図ることです。利用者負担のモデル的な水準としては、施設での利用が個室・ユニットの場合は月6万円程度、準個室の場合は月5万円程度、多数のベッドがある室の場合は月1万円程度となっています。また、施設利用での食費は、基本的には「食料材料費+調理コスト相当」が介護保険の対象外となり、利用者負担となります。なお、生活保護受給者や市町村民税非課税世帯などの場合には補足的給付といって、一定額以上の負担があれば介護保険から給付があります。低所得者層に配慮がなされています。
 第2は身近な生活圏域でのサービス体制の整備、居住者サービスの体系的な見直しなどにより、地域密着型サービスを生み出すことです。市町村の責任で自宅や施設以外に、多様な高齢者の住まいの選択肢を確保できる仕組みが導入されます。居住している市町村が積極的に施策を打つよう住民側からの働きかけが重要になります。
 第3はサービスの質の確保・向上。ケアマネジメントの公平・公正の確保、情報開示の徹底、事業者の指定更新制の導入や欠格事由の見直しを行います。と同時に、介護職員の専門性を向上させ、人材と資質の確保、研修の強化を図ります。特に地域における総合的ケアマネジメントを担う「地域包括支援センター」の設置が提案されていますが、どれぐらいの市町村で対応できるのか、市町村の力量が問われます。また、地域包括支援センターが設置されても、利用者が満足できる水準にまで活動できるのかもチェックポイントといえます。
 第4は第1号被保険者に対して負担能力の低い層の負担軽減、年金天引きの対象範囲の拡大や医療保険者の制度運営への関与方法や調整などです。ここで注意しておきたいのは、介護保険の保険料は、65歳以上の第1号被保険者の場合、一定額以上の老齢年金からの「天引き」が行われていることです。今回の改正では「遺族年金」や「障害年金」からも天引きされることになります。
 さて新規に介護サービス事業に参入しようと考えている企業では、今後数年以上にわたり要介護者が増加する地域を選ぶとともに、高品質のサービスを提供して継続的に利用者を確保することが成功への道だと思います。

提供:株式会社TKC(2005年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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