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今国会で提出された「新会社法案」ではその第3編で今までの合名会社・合資会社とともに「持分会社」の1つとして日本版LLC(Limited Liability Company:有限責任会社)といわれる合同会社制度が創設されています。
現行法における会社類型としては、社員の人的要素が重視され、会社債権者との関係では原則として直接・無限責任を負う人的会社としての合名会社・合資会社、会社の所有と経営とが分離され、会社債権者との関係では間接・有限責任しか負わない物的会社としての株式会社・有限会社、の4つの類型の会社形態が規定されています。
しかし、最近のベンチャー企業などでは新規事業のため多くの優秀な人材や資金を確保・調達しようとしても、人的会社では原則として直接・無限責任が課されてしまい思うように集めることができません。一方で、物的会社では資金等は調達しやすいものの、その内部機関についての規制があり、事業に沿った機動的な組織を設計することが難しいという問題点がありました。
新会社法案では、これらの点を受けて合同会社制度を創設することにしたわけです。
合同会社の主な概要
合同会社とは、出資者である社員について有限責任が確保され、会社の内部関係については組合的規律が適用され、柔軟な内部組織を設計することができるものです。その主なポイントは次の通りです。
(1) |
設立に当たって作成される定款にはその社員全部を有限責任社員として記載・記録しなければなりません(新会社法案576条4項)。 |
(2) |
社員は1名でも認められる(同641条参照)ほか、法人が社員になることも可能。ただし、この場合には業務を執行する者を選任し、通知が必要(同598条1項)。 |
(3) |
出資は金銭その他の財産に限られ、全額払込・全部給付が必要とされています(同578条)。労務による出資は認められていません。 |
(4) |
社員は他の社員全員の承諾がなければ、その持分の全部または一部を他人に譲渡することができません(同585条1項)。 |
(5) |
社員は定款に別段の定め(定款で業務執行社員を定めることも可能)がある場合を除き、業務を執行(同590条1項、591条1項)。 |
(6) |
各事業年度に係る計算書類(貸借対照表その他法務省令で定めるもの)を作成しなければなりません(同617条2項)。 |
(7) |
利益配当の請求方法その他利益配当に関する事項を定款で定めることができます(同621条2項)。 |
(8) |
社債の発行が可能(同676条) |
では、実際に合同会社が利用されるのはどんなケースが考えられるのでしょうか。その特質からみると、一定のリスクがある共同研究開発事業や中小企業同士の連携事業、産学連携等のベンチャー事業、投資会社、構成員の専門的能力を重視したコンサルタント事業、ソフト開発事業、会計・法律事務所などが適しているでしょう。
ただし、日本版LLCが活用されるにあたっては大きな課題があります。それは会社に対して課税するのではなく、出資者である構成員に直接課税がされる「パス・スルー課税」の適用があるか否かです。現時点では、合同会社は法人格を有していることから課税対象になると考えられ、パス・スルー課税の適用は難しいのではないかと思われます。このためパス・スルー課税の適用という面を考えれば、経済産業省が法制化をしている「有限責任事業組合(日本版LLP)」の方が採用されやすいのではないでしょうか。
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