Q&A経営相談室
【証  券】
株券不発行制度で何が変わるのか
 
Q:
 株券不発行制度が採用されると聞きましたが、どういう内容ですか。また売買の形態はどうなるのでしょうか。(建設資材商社)
 
<回答者> 税理士 和田政雄

A:
 現在株式市場に株式を公開している会社は株券を発行しています。そのうち特例として「株券保管振替制度」を利用している株主以外は、株券の現物を管理する必要があります。
 株券の現物は管理上様々なリスクを伴います。一例を挙げれば、偽造・毀損・紛失・盗難・運搬上・保管上などのリスクです。また、発行コストが嵩むことから実業界では「株券不発行制度」の容認が求められていました。株券不発行制度が容認されれば、株券発行義務を遵守していない多くの非公開株式会社の違法状態が治癒されることになります。
  政府の法制審議会は、平成15年9月10日に「株式不発行制度の導入に関する要綱」を発表し、これを受けて、平成16年に商法が改正されました。「公開会社・非公開会社を問わず、定款で株式を発行しない旨の定め」をすることが出来るとの内容で、平成16年6月9日に公布、同年10月1日から施行となりました。そして、平成21年6月までの「政令で定める一定の日」に、公開会社等の株券は一斉に電子化され、株券のペーパーレス化に移行することになります。即ち、株式公開会社はその日を期して株券不発行会社に移行し、株取引が迅速に行われ、正確性が保障されることになります。また、既発行の株券は同時に無効となりますが、回収の必要はありません。

資金調達・組織再編の迅速化に寄与

 株券不発行制度採用の手続きとしては、定款を変更し「株券を発行しない旨」を定め、株券が無効となる一定の日の2週間前までに広告をし、株主及び登録質権者に個別に通知する必要があります。が、前述の通り既発行の株券を回収する必要はありません。また、この制度を採用した場合、その旨を登記する必要があります。未公開会社の場合は株券不発行制度の採用は任意です。
  また、既発行の株券の一部が行方不明の状態であり、誰かに善意取得の主張をされる可能性のある発行会社はリスクを孕んでいますから、非公開会社で株式公開を目指す場合は株主数が少なく定款変更手続きが容易な内に実行するのが得策でしょう。また、株式発行コストを削減し、資金調達や組織再編などの迅速化・低コスト化を必要とする会社には格好な材料といえます。さらに、株券保管振替制度よりも効率的な管理が可能で、タンス株券の盗難や紛失のリスクが軽減されます。
 株主保護という観点でも、株券を紛失したり、盗難に遭う危険がなくなります。取引が迅速になると同時に、名義書換を忘れることがなくなり、会社名の変更や売買単位の変更等の際に、株券交換の煩わしさもなくなります。
 株券不発行制度に移行した後、公開会社の株式の売買は、新たに設けられる「株式振替制度」に基づいた口座間の振替によって行われます。例えば、Y証券に口座を開いているAがBに100株売ったとすると、Y証券のAの口座が100株減少し、Bが口座を開いているX証券のBの口座が100株増加します。この「株式振替」制度の仕組みは、現在の「株券保管振替」制度を母体として整備することが予定されています。
 アメリカやドイツでは株式保管管理機構がほぼ全ての株式を保有しており、フランスでは株券のペーパーレス化を実施しています。取引から決済までの期間はアメリカ、イギリス、フランスでは3日、ドイツでは2日となっていますが、日本でも期間短縮のために株式の不発行(ペーパーレス)化が進むこととなるでしょう。

提供:株式会社TKC(2005年6月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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