原価積上げオンリーは危険
コストを積み上げた上に、必要な利益額を加算して価格を設定する方法(原価積上げ法)は多くの企業で採用されています。原価割れしない安心感があり、一定の合理性もありますが、2つの点で注意が必要です。
第一に、原価を正しく捉えることがなかなか難しい点です。製造・販売の間接費や本社コストなどの固定費を商品ごとにどう捉えるか、また販促費・物流費などのコストを価格にどう反映させるか――会社としての方針がはっきりしていないと、商品ごとの原価の認識が極めて恣意的になりがちです。
第二に、より本質的な問題ですが、この方法には設定した価格に顧客がどう反応して需要がどう変化するかという考慮が一切欠落しています。その価格が顧客に受け入れられて一定の売上につながる保証はどこにもありません。その意味で、原価積上げだけに頼る価格設定は危険です。
価格設定は消費者へのメッセージ
一方、顧客の商品に対する評価に応じて価格を決めるという考え方は、顧客志向の立場から理にかなった価格設定の方法と言えます。ただし、顧客と一口に言っても、価格の安さよりも商品の目新しさや付加価値を重視する先進的顧客層を狙うのか、価格に敏感に反応するボリュームゾーンを狙うのかにより、「適切と評価する価格」の意味が変化することに注意が必要です。
具体的な方法としては、消費者を対象としたリサーチで値ごろ感を掴むというような活動がしばしば行われます。しかし中小企業の場合、こうしたリサーチの実施は質的・量的に限界があり、またご質問のケースでは「これまでにない新分野の商品」ということですから、リサーチに依存しすぎることは禁物かもしれません。いずれにしても「コスト積上げ」だけでなく消費者、量販店バイヤー等の顧客の「値ごろ感のゾーン」を考慮しておくことは重要です。
その上で、競合相手の価格に対してどういう設定で対抗するかの方針を決めなければなりません。「これまでにない商品」と売り手としては思いたいところですが、食品の場合には、限られた「消費者の胃袋のサイズ」を巡って必ず何らかの競合があることを想定して考えるべきでしょう。サンドイッチとインスタントラーメンは立派な競合商品なのです。
ご質問のケースのように斬新性を武器としたい場合には、商品の差別性を前面に押し出して競合相手よりも高い価格で勝負するか、敢えて同価格帯以下に押さえて一挙にボリュームゾーン奪取を狙うか、どちらかの選択になるでしょう。成熟した日本の食品市場においては、価格設定自体が売り手から消費者に対する重要なメッセージだと考えて決定すべきです。