Q&A経営相談室
【情報技術】
電子納品に対応する際の留意点
 
Q:
 当社が営業エリアとする自治体も、近く電子納品を始めます。これに対応するための留意点を教えてください。(地方建設業者)
 
<回答者>全国建設産業団体連合会 広報・企画担当副参事 山田安良

A:
 電子納品制度は、インターネット上で公共工事の競争入札を行う「電子入札」と同様、国交省が後れている建設業者のIT化を促す狙いから企画・導入されたものです。
 その内容は3つです。(1)従来、発注者とやり取りしていた「紙面の文書」を「電子データ」で行う、(2)発注者との「文書のやり取り」が電子メールもしくは情報共有システム等の「電子的手法」になる、(3)従来、検査時に「衣装ケース」に入れて提出していた「紙面の検査書類」を、電子データの状態で、当面は「CD−R」に書き込んで提出する−−というものです。
  国交省では、すでに今年度から国の直轄事業に関して全工事を対象に電子納品を実施しており、各地方自治体も2010年度までに完全実施する予定です。例えば三重県では、今年度は実証試験を行い、順次拡大し、2007年度から全工事を対象にしています。このため、自社が営業エリアにしている都道府県、市町村がどういうスケジュールで電子納品を実施するのかを、自治体のホームページ等で確認することが求められます。

電子納品は落札したときから始まる

 しかし、それ以上に注意を促したいのは、経営者の方がこの電子納品の意味を誤解していることです。それは電子納品という言葉から、(3)だけを行えばいいのだと勘違いされていることです。(3)だけでなく、(2)の、発注者とのやり取りも電子的な手法になることを大方の経営者は見落としています。なかには「電子納品は外注できる」と思っている人もいるくらいです。
 この発注者とのやり取りというのは、「工事打ち合わせ簿」等を指します。公共工事は今日受注して明日完成するというものではありません。大きな工事であれば1年以上はかかります。建設業者はその間のやり取りをパソコンで毎日管理し、発注者側に日々メールないし情報共有システムで報告・提出しなければなりません。そして、その工事が完成し、最後の検査時に(3)の、「完成図面」や「工事現場の写真」「施工計画書」等を電子データの状態(CD−R)で納品するわけです。当然、(2)ができていなければ、(3)もできるわけがないのに、大半の経営者は写真管理用のソフトはどれが最適かなどに関心がいっています。ちなみに、発注者側とのやり取りに関してはメールではなく、情報共有システムがいま本命視されています。
 
要するに、電子納品は、電子入札で公共工事を落札したときから始まると認識すべきです。したがって、電子納品に対応するには、まず経営者がその内容を正しく理解し、そのうえでITインフラを整え、全社員にパソコンの汎用スキルを身につけさせることがポイントです(下表参照)。

電子納品に対応するためのポイント 
1. 現場にインターネットの接続環境を整備
2. 全現場員レベルにパソコンの配備
3. すべてのパソコンに必要なソフトをインストール
4. 全現場員が「CAD製図基準案」に基づいた作図能力を磨く
5. 現場で使用するCADソフトの統一
6. 現場におけるバックアップシステムの確立
7. 全社員にパソコンの汎用スキルを身につかせる
8. 全社レベルでのウイルス対策と教育
9. 発注者とのやり取りは「情報共有システム」が本命

 発注者とのやり取りをするにあたっては、現場にインターネットの接続環境を行っていなければできませんし、社員一人ひとりがその使い方をマスターしなければならないでしょう。それは「ワード」「エクセル」などのアプリケーションソフトではなく、「エクスプローラ」によるファイル管理です。これができなければ電子納品はできないといっても過言ではありません。
 とはいえ、電子納品を行うためだけにインフラを整備しても、その効果は限られてくると思います。これを機に社内の業務プロセスを見直して、生産性の高いマネジメントスタイルに改めていくことが肝心です。(インタビュー・構成/『戦略経営者』岩崎敏夫)

提供:株式会社TKC(2004年10月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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