Q&A経営相談室
【人材戦略】
今春導入された「デュアルシステム」とは
 
Q:
 今年度から「日本版デュアルシステム」が導入されたと聞きました。デュアルシステムとはそもそもどういう制度で、中小企業にとってどんなメリットがあるのか教えてください。(精密部品メーカー)
 
<回答者> 東京都立六郷工科高等学校 副校長 諏佐眞一

A:
  ご質問のデュアルシステムとは、ドイツで実績のある「職業教育制度」のことで、企業と教育機関が連携して人材を育てていくシステムです。この制度をお手本にして、今年度から文部科学省や厚生労働省などで導入されたのが「日本版デュアルシステム」です。
 日本版デュアルシステムは、専門高校(工業・商業・農業高校)、専門学校、職業訓練校を教育機関とし、例えば厚生労働省では民間・公立の職業訓練校で年間約4万人を対象に職業訓練を実施する計画です。最近問題になっているフリーターや失業率の高い若年層の雇用対策が、その主な狙いです。
 他方、この日本版に先立って実施されたのが「東京版デュアルシステム」です。東京都では平成13年度から3年間、都立蔵前工業高校を“研究開発指定校”としてデュアルシステムを導入・検証しました。その事例などを踏まえ、「東京都産業教育審議会」(14年9月)の答申を受け、今春、都立六郷工科高校(東京都大田区/16年4月開校)に、全国で初めて「デュアルシステム科」が創設されました。
 六郷工科高校は、都立では初めての単位制工業高校で、デザイン工学科、プロダクト工学科、システム工学科、オートモービル工学科、デュアルシステム科の5つがあり、生徒数は207名(うちデュアルシステム科は29名)。本校のある城南地区は日本有数の産業集積地であり、その優れた技術・技能を受け継ぐ人材を育成する狙いから、デュアルシステム科が創設されたわけです。巧みの技を継承させなければ、ものづくり大国・日本は危ぶまれます。

“受け皿企業”のメリット

 デュアルシステム科では、工業技術基礎や情報技術基礎などを履修する一方、「インターンシップ」(1年次/5単位)と「長期就業訓練」(2年次、3年次/8単位)を行います。現在、本校と協定を結んでいる協力企業は74社で、このなかから1年次のインターンシップでは生徒の希望に基づき1社10日間で3社実施します(図表参照)。そのなかで自分の適正に最も合った企業を選び、2年次で2ヵ月間、3年次で2〜4ヵ月間の長期就業訓練を行います。長期就業訓練を行うにあたっては受け入れ先での「実習内容」が工業高校で学習する「科目」(例えば機械設計、機械工作など)のどれに該当するのかを、予め企業側にヒアリングしたうえで決めます。
 さて、「受け皿企業」にとってのメリットは何かといえば、即戦力の、若い人材を確保することができることです。従来のインターンシップでは、期間が短いため自社の技術を教えたくてもできないといわれていましたが、長期就業訓練であれば「働くことの楽しさ」や「巧みの技を学ぶことの喜び」などを味わわせることが可能です。デュアルシステムでは生徒と企業双方が合意すれば、卒業後そのまま採用することができます。それがひいては、地域経済の活性化や若い失業者の増加を防ぐことにつながるとみています。
 文部科学省では、このほど本校をはじめ大阪府立布施工業高校など、15地域・20校を日本版デュアルシステムの「モデル校」と指定して調査研究を行うことにしました。中小製造業の現場で「働く訓練を履修した若者」を積極的に採用し、技術の継承をはかっていくことが勝ち残りに通じる道だと思います。
(インタビュー・構成/「戦略経営者」・岩崎敏夫)

提供:株式会社TKC(2004年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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