Q&A経営相談室
【労務管理】
総労働時間の取締強化に対応する
 
Q:
 労働基準監督署が総労働時間の取締を強化しています。私どものように旧来の徒弟社会的な慣習のもとで従業員(職人)を雇用している業態はどのように対応すればよいのか、お教えください。(割烹料理店)
 
<回答者> 社会保険労務士 吉原和夫

A:
 使用者と労働者との労使関係を規定する労働基準法(以下「法」)は、その第9条で労働者を「職業の種類を問わず、同法別表1の事業又は事業所に使用される者で賃金を支払われる者をいう」と定義し、同法別表1の14号には「旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業」が記されています。
 また現在法では、原則1日8時間、1週40時間制をとっており、従業員を採用する際には原則労働時間に対し賃金が決定されるわけですが、1日8時間を超える労働については割増賃金の支払が必要になります。超過勤務労働が深夜(午後10時より午前5時まで)及び休日の場合も割増賃金の支払が必要とされています。
 さて、旧来の徒弟社会的な制度では、料理店等において従業員を採用する場合、使用者が一方的に労働条件を決めるか、労使双方が労働条件を納得することで採用が決まっていました。しかし現在は法の基準に合わない労働条件は無効とされ、法の基準によらねばならないとされています。基準を守らない場合、法は罰則規定を設けています。
 ご質問のように、料理店等は通常の会社と異なり仕事がお客を待つ受身的な性格が強いため、拘束時間が長くなりがちです。お客がいる時間はもちろん、店の開店時間前にする料理の仕込みも従業員側からすれば労働時間となります。閉店時間になっても後片付けがあれば、それも労働時間です。
 したがって、いきおい飲食業では拘束時間それ自体を労働時間と誤って理解しがちですが、労働時間とは業務命令によって、労働に従事する時間と考えるのが一般的です。

的確な業務命令を出す

 法では6時間を超えて労働する場合は45分の休憩が必要とされ、8時間以上の労働では1時間の休憩が必要です。休憩時間とは、労働することから離れることを保障する時間で、自由が保障されている時間をいいます。
 外出を禁じたとしても自由に休むことが出来ればいいわけです。休憩時間は本来一斉に与えられなければならないものですが、料理店等については一斉休憩の原則は適用されません。例えば、1日の拘束時間が12時間であった場合、休憩時間が2時間あれば、その日の労働時間は10時間です。法は1日8時間労働なので2時間は超過勤務したことになり、その2時間に対し割増賃金の支払が必要になります。
 法では、所定労働時間(8時間)を超えて労働した場合に125%(2割5分増)、深夜に労働した場合はさらに125%、休日労働も125%、法定休日に労働した場合は3割5分増の割増賃金の支払を求めています。1週40時間労働制のため、1日8時間、週5日の就労で40時間となりますが、週のうち他の2日をやむを得ず就労させなければならないとしたら休日労働が発生します。
 ただし法36条は、使用者はその事業場の従業員の過半数を代表する者と書面による協定をして所轄労働基準監督署に届け出た場合、原則時間を超えて労働させることができるとしています。具体的には1ヵ月45時間、3ヵ月120時間、1年360時間を基準に労働させることができ、またあらかじめ定めた休日についても同様に労働させることが出来るとしています。
 現在は原則労働時間をベースにいろいろな労働形態が採用できます。法が要請する時間を守ってより好ましい労使関係を保つには、使用者は正確に労働時間を把握し、的確な業務命令を出して、健康に十分注意した職場環境をつくっていく必要があります。

提供:株式会社TKC(2004年5月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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