Q&A経営相談室
【労務管理】
社員がお金を紛失したときの対処法
 
Q:
 社員がお金(回収した売掛金等)を紛失しました。どう対処すればよいでしょうか。 (事務用品メーカー)
 
<回答者> 社会保険労務士 山本礼子

A:
 社員が、集金したお金を紛失・盗難・過不足などの事故を起こしてしまったときは、まず事実確認を社員からしっかりと行うことが重要です。同時に、警察へ遺失物届けを行います。
 このようなお金のトラブルだけでなく、顧客からのクレームなどがあった場合についても、後に懲戒処分を行う必要が生じた際のために、 事故報告書をきちんと作成する必要があります。事故報告書には、「日時、場所、事故の内容、対処方法、社員への指導内容、指導した日時、報告を受けた者、指導した者」等を書き留めます。
 はじめての紛失事故であるならば、通常は、再発防止のためにも事故をおこした社員への懲戒処分として「始末書」を書いてもらうのが一般的でしょう。始末書には、「紛失した日時、顧客名、金額、紛失した場所、どのような行為によって紛失したのか」等を記載し、本人から今後はこのような不祥事を起こさない旨の謝罪の一筆と署名・捺印をもらいます。
 ただ、始末書を書くということを拒否する社員もなかにはいるかもしれません。その場合は、本人より事実経過の報告を求める「顛末書」は必ず記載してもらいます。
 「顛末書」については、事件の経過や原因を報告する文書であり、謝罪・反省の始末書とは異なるため、業務に関するものであれば業務命令として提出を命ずることができます。

2度目はさらに重いペナルティ

(1) けん責

始末書をとり将来を戒める。

(2) 減給

始末書を提出させ、減給する。

(3) 出勤停止

始末書を提出させ、7日以内において出勤を停止し、その期間中の賃金は支給しない。

(4) 昇給停止

始末書を提出させ、一定期間昇給を停止する。

(5) 降格

始末書を提出させ、降格、役職解任を行い、将来を戒める。

(6) 諭旨退職

自発的に退職願の提出を勧告し、提出があったときは退職させる。ただし、勧告に応じないときは、懲戒解雇とする。

(7) 懲戒解雇

予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄労働基準監督署長により解雇予告除外認定を受けた時は、解雇予告手当は支給しない。ただし、情状によって退職願の提出を勧告し、諭旨退職にとどめることがある。

 一方、2度目の紛失などの場合には、さらに重い懲戒処分をとることも考えられます。就業規則に定める懲戒処分としては、一般的に(1)けん責、(2)減給、(3)出勤停止、(4)昇給停止、(5)降格、(6)諭旨退職、(7)懲戒解雇といった段階があります。具体的な処分内容は図表のとおりです。
 なお、各種懲戒処分の中からどの処分を選択するかは基本的には懲戒権者の裁量に委ねられていますが、懲戒事由の具体的適用においては就業規則に具体的に記載する必要があります。
 ただし、気をつけていただきたいのは、「減給」の制裁をする場合には労働基準法により金額の制限が決められていることです。 
 労働基準法では、「減給は1回の額が平均賃金の半額を超え、かつ、総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない。(労働基準法第91条)」と定められています。1回の額とは、懲戒事案1事案を指します。たとえば、平均賃金1万円の者の場合、5000円以下かつ総額が賃金総額の10%以下でなくてはなりません。総額とは、1賃金支払期間中に懲戒事案が2つ以上ある場合の総減給額です。
  また、今後はこのような事故を未然に防ぐ意味でも、振込の促進や、金融機関などがおこなっている口座振替による集金代行サービスの利用についても検討してみてはいかがでしょうか。

提供:株式会社TKC(2004年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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