Q&A経営相談室
【労務管理】
紛争調整委員会から退職勧奨の「あっせん」開始通知がきたのだが…
 
Q:
 紛争調整委員会から従業員の退職勧奨に関してあっせん開始の通知がきました。どういう手続で対応すればいいのでしょう。(食品メーカー)
 
<回答者> 太田・石井法律事務所 弁護士 石井妙子

A:
 平成13年に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が立法されましたが、紛争調整委員会による「あっせん」はこの法律で新設された制度です。
 かつて、「労使紛争」というと、争議行為など労働組合とのトラブルが中心だった時期がありましたが、近年は、個々の労働者と事業主の間のトラブルが増加しています。これを「個別労働関係紛争」と言います。個別労働関係紛争の増加の背景には、社会経済の情勢や、組合の組織率の低下、個人の権利意識の高まりがあると思われます。
 紛争の最終的な解決の場としては裁判所がありますが、訴訟は費用も時間もかかり、またわが国では一般的に「裁判沙汰は避けたい」という意識があります。その意味で、従来、個別労働関係紛争については、利用しやすい解決の場がありませんでした。そこで、前記の法律によって、都道府県労働局で無料にて、個別労働関係紛争の解決援助のサービスを提供する制度を新設することになりました。
 具体的には、1.総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談、2.都道府県労働局長による助言・指導、3.紛争調整委員会によるあっせん、の3つの制度が設けられています。
 この法律および制度は平成13年10月から施行されていますが、施行後1年の実績として、全国の総合労働相談の件数は約54万4,000件、助言・指導申出の受付が約1,900件、あっせん申請の受理件数が約2,000件ありました。このような解決の場が待ち望まれていたのだと言えましょう。
 さて、お尋ねの紛争調整委員会によるあっせんですが、この手続は、募集・採用に関するものを除く、あらゆる分野の労働問題を対象としています。紛争調整委員会は、労働問題について専門的知識等のある弁護士、大学教授等により組織された委員会であり、都道府県ごとに設置されています。この委員のうちから指名されるあっせん委員が、紛争解決のあっせんを実施します。

事情に応じ柔軟な解決めざす

 「あっせん」は、当事者の話し合いによる解決を目指すものですから、両当事者の間にあっせん委員が入って、双方の言い分を聴取し調整をします。場合によっては参考人からの事情聴取も行います。また、双方が求めた場合には具体的なあっせん案を提示します。事業主、従業員双方があっせん案を受諾するなどして合意に至れば、紛争は円満に解決することになります。事情に応じた柔軟な解決を図ることを目指していますので、例えば、退職勧奨をめぐるトラブルでも、退職勧奨をやめて雇用を継続するという解決もあれば、退職金の割増を条件に円満退職をするという解決もあります。
 一方、合意ができなければ、手続は打ち切りとなり終了します。従業員側がどうしても納得できないとなれば、改めて訴訟等、他の手段を検討することになります。

あっせんを断ることも可能

 このように紛争調整委員会によるあっせんは、あくまでも話し合いによる解決を目指すものですので、あっせん案の受諾や譲歩を強制されるものではありません。そもそも、手続に応じるかどうかについても、強制されるものではありません。通知が来ても、手続に参加する意思はないと断ることも可能です。いったん応じても、途中で打ち切りを申し出ることもできます。
 ただ、簡易・迅速な解決や、事案内容に応じた柔軟な解決は事業主にとってもメリットのあるものですから、積極的にこの手続を利用した方が良い場合が多いと考えます。

 なお、あっせん委員の許可を得て、弁護士や社会保険労務士に代理を依頼することもできます。

提供:株式会社TKC(2003年5月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
戻る ▲ ページトップへ戻る