Q&A経営相談室
【賃金制度】
定期昇給制度を抜本的に見直したいのだが…
 
Q:
 これまで年功重視の賃金制度を維持してきましたが、ここ数年、新規の採用を控えていたこともあり、賃金レベルが全体的に上昇してきています。そこで、将来的なことも見据え、定期昇給を抜本的に見直したいと考えています。ポイントや注意点をアドバイスしてください。(倉庫・運送業)
 
<回答者> プライムコンサルタント代表 菊谷寛之

A:
 これまでは、社員の能力がいつまでも伸びることを前提に、年齢給や職能給などの仕組みの中で年功的に昇給・昇格を積み上げ、一度上がった基本給は下げないという考え方でした。多くの社員にとって大変安心できる処遇システムですが、社員の高齢化とともに基本給がどんどん上がり、デフレ経済のもとでは大変な重荷になります。また、新しい仕事についていけず能力やモラールが低下しても賃金を下げられないので、現状に平気であぐらをかく問題社員も発生しがちでした。
 だからといって安易に定昇を廃止し、機械的に全員の昇給をストップしても問題は解決しません。年功で高くなった社員の賃金を放置したまま、各人の働きの評価を無視して昇給を一律停止したのでは、実力のある人材や、伸び盛りの若手が納得しないからです。これまでの年功的な定期昇給を廃止するには、それに代わる納得できる賃金の決定方式を用意しなければなりません。
 組織上の責任の重さで社員を5〜6級のグループに分けて賃金の上限・下限を決め、その中の実力で賃金の絶対額をコントロールする「ブロードバンド」という仕組みをお奨めします。
 この仕組みでは、賃金表の年齢給・職能給という区分けを廃止し、「○等級○号(=○円)」というように基本給を一本で決めるシンプルな等級別の号俸表を使います。図のようにT〜Xまでの等級ごとにE―D―C―B―A―Sという実力レベル(号)に対応した「賃金ゾーン」を設定し、今までの基本給を全員新しい賃金表に乗せ変えます。
 等級は仕事の責任の重さで決めますが、ゾーンは一般的に賃金の高い中高年層は各等級のSゾーンやAゾーンに、賃金の低い若手はEゾーン〜Cゾーンというようにこれまでの賃金の高さで決まります。毎年の賃金改定では、各人の基本給の高さ・ゾーンと実力の評価との組み合わせによって号俸を上げ下げしていく、「段階接近法」という手法を使います。ただEとDゾーンだけは、成長を期待する期間という意味から誰でも年数によって昇給できる年功的要素を残しておきます。
 今の賃金ゾーンよりも高い実力を発揮していると評価された人は、その実力レベルの賃金ゾーンの上限まで昇給できます。各等級ごとにDゾーンからCゾーン、Bゾーン・・・・と基本給が高くなるに従って昇給額を抑制し、C評価はCゾーン、B評価はBゾーンのそれぞれ上限で昇給は頭打ちとします。それ以上に基本給を上げていくには、より高い実力を発揮し、その上の等級へとステップアップする必要があるわけです。
 逆に今の賃金よりも低い実力しか発揮していないと評価された人は、その低い実力レベルのゾーンまで賃金を下げるマイナス昇給を実施します。基本給の高い社員にはそれだけ質の高い働きを求め、その実力が発揮できないときはマイナス昇給を実施するという合理的な仕組みです。
 このように社員が発揮している実力レベルと賃金とが常にバランスする仕組みに改めることで、これまでの年功賃金の矛盾はすっきり解消され、社員にやる気と緊張感が出てきます。賃金の納得性を飛躍的に高めることができるはずです。

提供:株式会社TKC(2003年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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