Q&A経営相談室
【人事制度】
退職金制度をやめて給料に上乗せしたいのだが…
 
Q:
 退職金制度をやめて給料に上乗せしたいと考えているのですが、具体的にどうすればよいのでしょうか。 (家具メーカー)
 
<回答者> 株式会社プライムコンサルタント代表 菊谷寛之

A:
 
最近、このような相談が少しずつ増えています。理由を聞くと、いまのような退職金制度を続ける限り退職金コストが増えるばかりで経営の見通しが立たない、とのことです。
 団塊の世代を中心に長期勤続で定年を迎える社員が増え、退職金の総支給額が増え続けていることや、退職給与引当金に損金処理できる枠が減らされ退職金の内部積立コストがかさんできたことなどが、その背景にあります。しかし、退職金制度は以下の3点の理由から、簡単には廃止できません。
(1) 社員がこれまで勤めた期間について発生した退職金は、明確な企業の債務であり支払義務がある。
(2) 退職金制度の廃止はいわゆる「就業規則の不利益変更」にあたり、それ相当の合理的理由が必要になる(単に経営が苦しいという理由だけでは法的に通らない可能性が高い)。
(3) 自社だけ退職金制度を廃止することは、労働条件の悪化を社会にアナウンスするようなものなので、人材の流出や企業評価の低下などのリスクを覚悟せねばならない。
 そこで登場するのが「退職金の前払い制」です。退職金前払い制は、退職金の過去勤務分を保証したうえで、退職金相当分を毎年現金で支給するものです。これは退職金の廃止ではなく、支給方法の切り替えですから、労働条件の低下と非難されるようなことはありません。

勤続奨励効果は失われる

 ではここで、2001年4月から全員年俸制導入とともに前払い制に切り替えたX社の例をもとに、退職金の前払い制について具体的に説明します。
 X社は、2001年3月末時点で勤続3年以上の社員に対して、「過去勤務分の会社都合退職金」を清算支給しました(税法上退職所得控除の適用が受けられます)。3年未満の社員も満3年に達するたび、同様の切り替え措置を行います。
 ちなみに、X社のように過去勤務分を一括清算する資金がないというのであれば、ある年齢・勤続年数未満の社員だけ切り替えるという方法もあります。
 X社は「過去勤務分の会社都合退職金」の精算支給をした後、退職金の前払い額として毎年、年度末に1年間の貢献度評価に応じた「退職手当」をつぎのようなポイント方式により支給していくことにしました。
退職手当=等級・評価別ポイント×(ポイント単価A+ポイント単価B)。
 等級・評価別ポイントは、毎年4月1日の本人の等級と昇給評価に基づいて決定します。「ポイント単価A」(8000円)は退職手当の基本部分です。物価や会社の支払能力に大きな変動があったときは、ポイント単価を変更します。「ポイント単価B」(2000円)は退職所得控除が適用されない分の埋め合わせです。現行の給与所得税率や退職所得控除の水準を考慮して基本部分の25%の水準に設定していますが、将来において税制が改正されたときには見直します。
 すでにお気づきかもしれませんが、いわゆる「ポイント制退職金」を実施している会社であれば、前払い制に切り替えることは比較的容易です。
前払い制のメリットは、企業サイドにとって会計上の退職給付債務の対象からはずれ、積立金の運用の苦労がなくなることです。社員は手取り収入が増えた分、生活設計の選択肢が広がります。ただし将来をよく考えた計画的な使い方を指導し、希望者は401Kプランも選択できるような配慮をしたほうがよいでしょう。
 退職金の前払い制の問題点としては、これまでの退職金のような勤続奨励効果が失われるということがあげられます。また、会社都合・自己都合という退職区分もなくなるので、将来社員を解雇しなければならないようなときに一種の「手切れ金」の役目を果たしてくれるものがなくなる、ということもあります。導入の際にはそれらの点に注意して下さい。

提供:株式会社TKC(2002年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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