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新商品を開発したが、ネーミングをどうしたものか――といった悩みを抱えるメーカーが近年増えています。一昔前なら商品さえよければ適当な名前でデビューさせていたのに、今はどうして、商品のネーミングにそれほどこだわるようになったのか…。
不況がネーミングの重要性をクローズアップした、と私は考えています。不況だとモノが売れません。そのため各社は、さまざまに企画し次々と新しい商品を開発するようになります。そうなれば当然、商品は多様化して、ますます競争が激しくなります。
そんな状況下では、他の商品との区別性、差別性を訴えていかなければ到底、商品は売れません。他の商品と比べて、どこに特徴があるのかをしっかり訴えていかなければ、猛スピードで新商品が開発される“多品種氾濫マーケット”の中で埋没してしまうことになります。
さて、その区別性、差別性をどうネーミングの中に含ませていけばいいのでしょうか。
ひとつの方法は、商品の一番の特長を端的に言い表すキャッチフレーズをまず考え、それを短く一言にまとめたものを商品名にしてしまうことです。その際には、以下の2点に注意してキャッチフレーズを考えてみてください。
1.言いたいことを欲張らない。
2.最大特長を一つに絞り、わかりやすくまとめる。
一例をあげます。数年ほど前に発売された日立洗濯機の『からまん棒』という商品名を考案したのは私ですが、そのときは「洗濯機内の一本の棒が布がらみをほどく」というキャッチフレーズをまず先に考えました。その洗濯機の特長はまさしくそれだったのです。
さらに、そのキャッチフレーズに、「言いやすく親しみのある響きを持たせること」「憶えやすいうえにインパクトがあること」の2点を心掛けながら短くまとめたものが『からまん棒』だったのです。
当時の洗濯機の名前といえば、東芝が『銀河』、ナショナルが『うず潮』、三菱が『千曲』、サンヨーが『びわ湖』という具合に、抽象的なものばかりでした。そんななかに『からまん棒』ときたわけですから、商品が発売されるやいなや、なかなかの評判になりました。
PHSの「アステル(ASTEL)」グループの名付け親も私です。これは「PHSは明日(AS)からの電話(TEL)だ!」というキャッチフレーズからきたものです。当時まだ珍しかったPHSをみて、それを思いつきました。
いかがでしょうか。意外とネーミングも簡単なものに思えてきませんか?
要は、その商品の特長をどれだけ端的にまとめられるかということだけなのです。
パッケージが広告になる
最近、広告予算が激減して思うように商品広告ができない、という嘆きの声がいたるところで聞こえてきます。新商品は過剰とも思えるほど増えているのに広告料は減る――といった「逆比例の悲劇」が起こっているようです。
ところが、先述したように商品名にキャッチフレーズの内容を含ませておけば、その商品の存在自体が広告媒体の役割を果たしてくれることになります。というのは、広告の目的は「キャッチフレーズをどう消費者に伝えられるか」につきるからです。ポスターや新聞広告でなくても商品のパッケージに印刷された商品名にキャッチフレーズの要素があれば同じ効果が得られるのです。
そうした理由からもキャッチフレーズを短くする方法で商品のネーミングをすることは、意義のあることなのです。
スーパーのケースの中で、あるいはコンビニの棚の上で、その商品自身に自分の存在と特長とを叫ばせるようなネーミングを是非とも考えてみてください。
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