Q&A経営相談室
【メンタルヘルス】
営業成績が落ち内向的になった社員に対処するには…
 
Q:
 営業成績が急激に落ち込んだせいか内向的になり、人とのコミュニケーションをうまくとれなくなった社員がいます。どう対処すればよいのでしょうか。(不動産業)
 
<回答者>アクティブライフ・プランナー 八尾稔啓

A:
 まず、その方に何らかの心身的症状が見られる場合は、早めに産業医や最寄りの産業保険推進センターなどにご相談されることをお勧めします。主な症状としては、不眠、食欲低下、めまい、朝の不調が続く、憂鬱なときが多い、仕事がはかどらない、遅刻や早退が増えた、今までと違う行動が目につく――などがあげられます。
 そうでない場合は、周りの社員の目に触れない場所で本人の話をじっくり聞いてあげることが大切です。その際、その方の感情に焦点をあてて聴くことを心掛けてください。「このところ何か辛そうだね」とか「最近ため息が多いみたいだけど」など、誘い水になるようなアプローチです。話の途中で「何だそんなこと」とか「もっとしっかり」など相手の話に水をさす言動はおさえてください。話を通じて本人の悩んでいる原因や、本人が今どんな状況にあるのかを一緒に整理するような気持で対応すべきです。いわば「気付き」の支援をするということです。
 本人のストレス状況については、中央労働災害防止協会(http://www.jisha.or.jp/)の職業性ストレス簡易調査や大阪府のこころの健康総合センター(http://www.iph.pref.osaka.jp/kokoro/)のチェック表がHPを通じて活用できます。落ち込んだりストレスを感じている人を立ち直らせるには、本人に自分の状態を認識させることが問題解決の第一歩です。悩んでいる問題が少しでも整理できれば解決策も見出しやすくなるし、本人にとっては、話を聞いてもらえたということが実は大きなケアにもなるのです。「話す」ことには、ストレスを「放す」癒しの効果があるのです。
 落ち込んだり悩みやすい人にはいくつかの共通した特徴があります。まず思考的には (1)過度の自責感や罪悪感といった自己に対する否定的見方、(2)ペシミズムを代表とする自己を取り巻く世界への否定的見方、(3)絶望感を中心とした将来への否定的見方――などです。上司には何だそんなことでも、本人にとっては非常に重大な事件になるのです。
 気質的には執着型の傾向を示します。非常に几帳面、完璧主義、強い責任感、仕事熱心、凝り性、律儀、等々です。こういう方は何事にも頑張りすぎるため心や体が緊張しやすいのです。したがって日常から心身をリラックスさせることが大きな効果を生み、リラックス法を会議の合間などに行えば予防効果も期待できます。
 現代の社会情勢を考えれば心や体が歪んで悲鳴をあげるのは当然です。それに対処するには会社全体として、こうした状況にうまく対応できる風土づくりをしていくことが何よりも重要です。

「人」を活性化させる

 2000年に旧労働省が発表した「事業場の心の健康作りの指針」ではメンタルヘルスの重要性が打ち出され、同年、最高裁判所は長時間労働による鬱病を原因とした自殺を「過労自殺」と認めました。労働安全衛生法の安全配慮義務違反で企業側が全面敗訴したのです。
 またNIOSH(アメリカ国立安全衛生研究所)など多くの海外専門機関が、心の健康状態と企業の経営成果の間に明確な相関関係があることを指摘しています。メンタルヘルスは行・法制的にみてもやらざるを得ない状況にあり、実施すれば企業の生産性向上に大きく寄与します。
 しかし現実には企業は目先のことに追われて実施に二の足を踏み、従業員はストレスを抱えたまま行動や思考に影響を受けているのです。病気などと同様、早期に手をうてば時間もコストもかからず解決に至ります。そして、何よりメンタルヘルスの実施は企業経営の根幹の「人」を活性化させ、企業躍進のエネルギーになります。メンタルヘルスは企業の重要な戦略課題の一つであり、リスクマネジメントとしても重要な位置を占めているのです。

提供:株式会社TKC(2002年5月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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