A:
これからの人事制度は、なにをおいても企業業績向上に寄与することを基本とします。企業風土を変える、新しい事業を効果的に展開させるなどを目指す経営革新の道具としての人事が問われているのです。
方向としては、従来の能力主義から貢献主義へと変貌することになります。貢献主義は、「役割」と「成果」で構成されます。役割とは「成果を生み出すための価値ある行動」のことで、成果とは「新しい価値を生み出す、またはトップのビジョンを具現化する」ことをいいます。具体的には、昨今の人事制度の傾向としてつぎの3つの現象が見られます。
(1)「人間基準」から「仕事基準」へ
|
|
役割とか、職務とかの仕事を前面に出し、それらを担える人を割り付けるというような対応が見られます。
|
|
(2)現在価値の重視
|
|
新しい事業や、従来のやり方を大幅に変えざるを得ない状況では、思い切った人材の登用も必要になってきています。従来の知識や技術が陳腐化を余儀なくされ、人材の交代を行わざるを得なくなってきました。
|
|
|
(3)業績連動にもとづく「人件費の変動費化」
|
|
固定費である人件費を、それぞれの企業における業績と連動させて決定する方法を模索しています。その方法としては、資格制度の見直し、報酬制度の再考、雇用形態の組み合せの検討などがあります。
|
「仕事基準」への移行がポイント
ご質問の抜擢人事においても、安易に年功序列を否定するのではなく、人事制度を抜本的に変更するという視点から行う必要があります。特に重要なのは、年齢や勤続といういわゆる「人間基準」から脱却し役割や職務といういわゆる「仕事基準」に変換することです。すなわち、その職位の役割や求められている職務を明確に社員に開示し、それが遂行できるかを問うようにします。年齢や勤続年数、性別や学歴という人間基準ではなく、あくまでも企業が求めている役割が担えるかどうかが基本です。たとえば極端な話、定年制や役職定年制の廃止も検討対象になります。なぜならば、年齢という基準で一律的に定年や役職を解任することが必ずしも適切ではないからです。つまり、単なる若手社員の抜擢でなく、適材適所の人事制度に変更することが重要だということです。
年功序列の場合はいわば「外形基準」で人事制度を運用すれば良いので難しさはあまりありませんが、仕事を基準とする場合は多大なエネルギーが必要となります。社内のすべての役割や職務の洗い直しを行い、それに相応しい人を適用することが必要だからです。なかでもやっかいなのは社員の意識改革です。この課題をクリアするには、まず解りやすい「目に見える形」の人事制度にすることが大事です。解りやすいとは、当然のことですが「言っていることと、やっていることが同じ」ということです。トップが「実力主義」と言っても、現実に行われていることが相変わらずの序列人事では社員はしらけてしまいます。言っていることを現実に見える形で社員に提供することで、社員は「今度は本気だ」と感じます。トップの熱い思いが成功のポイントだとも言えます。
一方、社員の方は従来の「処遇均等」から「機会均等」になるのですから、その機会が提供された時にそれに応えることができるよう平素から自分を鍛えておくことが必要となります。自ら学んでいくこと、自己啓発が中心になっていきます。企業の方は、情報提供、時間の配慮などの側面的な支援を行っていきます。
これからの企業経営はダイナミックな変化を自ら創り出すことが求められます。企業経営を支える人事制度も同様にダイナミックな設計と運用が必要になります。先に述べてきたことは、そうした今後の人事制度の土台となる考え方なのです。
|