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自社のオフィスが入居していたテナントビルのオーナーが破産してしまった場合、オフィスルームの賃借人である経営者の方が入居時に差し入れた敷金をどうにか取り戻したいというのは当然の話です。
敷金回収の手段としては、以下の3つをあげることができます。
(1)
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「オフィスルームを明け渡した後に、破産管財人の管理する破産財団から配当を受ける」
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敷金返還請求権は配当に関する限りは一般債権として扱われますので、他の債権より優先的に支払われるといったことはありません。この方法では、ごくわずかな配当を得ることしかできないといえます。ちなみに、破産当事者に残っていた資産がまったく存在せず、無配当で終わることもめずらしくありません。
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(2)
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「しばらくそのオフィスルームに居続けることで、敷金と賃料を相殺する」
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本来、敷金の返済請求権は、物件を明け渡した後にはじめて現実化するものなのですが、破産法103条では、賃借人の保護の観点から、オフィスルームの明け渡し前であっても敷金返還請求権と賃料との相殺を認めています。
したがって、しばらくの間、賃料を支払わずにそのオフィスを使用し続けることができます。
しかし、この規定はあくまで例外的なものなのです。破産法103条の趣旨は、「数ヵ月間の範囲で、敷金を他の破産債権よりも優遇する」という程度のものでしかないことを理解しておいてください。
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(3)
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「ビルの新しい所有者に対して、オフィスルームを明渡した後に、敷金の返還を請求する」
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この(3)が1番、有効な回収手段でしょう。
「破産管財人がそのビルを任意に売却する」、あるいは「抵当権者が競売を申し立てて競落人が買い受ける」などといったように、テナントビルの所有権が移転することがありますが、敷金に関する契約は賃貸借契約に付随する“従たる契約”ですので、ビルの新所有者が新賃貸人になる限り、賃借人はビルの新所有者に対して敷金の返還請求権を行使することができます。賃借人としては新所有者の資力をあてにできるので最も有効的な手段といえます。
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「保証金」の扱いについて
以上、敷金の扱いについて述べましたが、事業用物件などで極めて多額の「保証金」を差し入れている場合には、この保証金の扱いも心配事のひとつといえます。
一概に保証金といっても「敷金としての性質を有するもの」「礼金としての性質を有するもの」「家主に対する貸金としての性質を有するもの」などがあり、どの性質を有するのかは、賃貸契約を結ぶ際に取り交わした契約上の解釈の問題になってきます。
例えば、契約上、「保証金は、部屋の明け渡し後に直ちに一括で賃借人に返還されるべきもの」と記されていた場合などは、敷金的性質が強いといえますが、「保証金は、部屋の明け渡し後10年間の分割払いで返還をする」とされていると、「貸金」的性質が強くなってきます。
保証金が貸金であるとされてしまうと、賃貸借に付随する契約とは認められません。そうすると、前述の(3)のように新所有者に対する返還請求をする局面では、その返還請求は否定されてしまい、一般債権として破産財団から少額の配当金の支払いを待つ以外に回収手段がなくなってしまいます。
判例上は、5000万円程度の保証金を全額敷金と認めた事案もありますが、最近は多額の保証金の大部分を貸金として認定する判例も多いので、注意が必要です。
実際には難しいところですが、事業用物件を借りる場合、多額の保証金については、「明け渡し直後一括払い」など敷金としての性質を強めたうえで契約する、といった考慮も必要といえるでしょう。
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