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職場が以前のように家族的でなくなり、不況やリストラが常態化している現在の企業の人間関係は「殺伐としている」という表現がぴったりしています。
経営者一人ひとりは、冷酷でも非情でもないのですが、断腸の思いで古株社員のリストラを断行せざるを得ないこともあるでしょう。孤独感がふつふつと湧きあがってくるそんなとき、せめて若い人たちとはキチッとコミュニケーションをとっておきたいという思いが強くなることでしょう。若い人たちに喜ばれないのでは、何のために歯を食いしばって頑張っているのか分からないと思う人も少なくないはずです。
では、その若い人たちとコミュニケーションがうまくとれているかというと、そうとはいえません。「最近の若い人は何を考えているのか分からない」「自分たちの若い頃とは全く違う」と、思う方が多いでしょう。若い人のことを思って面倒みてあげようとしても、案外これが空振りになり、ますます孤独感を強めたりしてしまいます。
たとえば自分の若い頃、上司からごちそうされたときの感激を思い出し、若い連中を誘い、食事をごちそうしても、確かに「ごちそうさまでした」と口ではいうが、どうもピンとこないという経験をしていると思います。
それは、食事をごちそうになる、ということ自体の価値が違っているからです。1つはお金のないときは1食分の助けとなりますが、今は不況といっても食べるものがない時代ではありません。それに口の肥えた若者はもっと口に合った食物を食べたいという、大げさにいうと“食”の自由を求める気持ちが強いのです。また、社長と食事、となるとリラックスはできません。一方、社長は若い人の前ではリラックスし、食事で気持ちも大きくなり、かなり言いたいことを言ってしまいます。すると若い人たちは、せっかくの食事なのに、訓辞をされているような心理状態になってしまうのです。これでは、おいしく食事はできませんし、本心から社長に感謝はできなくなってしまいます。
以上は1つの例ですが、このように社長の思惑と若い人の心理は違っているのです。社長は社内の若者に対しては、圧倒的な権威があり、若い人は社長に反対できないことをまず、認識しておくことです。若い人たちの社長に対する発言や意見は、常にこの権威というフィルターを通してみていかないと本当のコミュニケーションをとることができません。
むしろ、権力者であるということは、部下とは本心からのコミュニケーションはとれないという覚悟をして、コミュニケーションをとったほうがいいと思います。今の若者は、昔の人よりもずっと人間関係に気をつかい、コミュニケーションに敏感です。社長の前では笑顔で賛成したとしても、それは本当に賛成なのかどうかは分かりません。
では、若い人とどうコミュニケーションをとったらいいかといいますと、まず若い人から好かれているかどうかあまり気にしないことです。それを気にするとゴマすりにひっかかってしまいます。それから、威張らないこと。社長は社長であることだけで権力者です。その上威張られると今の若い人は特に自由を奪われることが嫌いなので敬遠されてしまいます。昔の話をするのもこれと同じで敬遠されます。
大事なことは若い人とコミュニケーションをとろうとやっきにならないことです。むしろ、一歩おいて若者たちをみていて、向こうからやってきたときに親切に相談にのってあげるという泰然とした対応がいいのではないでしょうか。
若い人は社長が思っている以上に社長をみています。ですから、社長が訓辞をたれるのではなく、行動で範を示すと向こうから近づいてくるのです。そのときがチャンスです。コミュニケーションが自然ととれるはずです。
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