Q&A経営相談室
【社会保険】
定年退職者を再雇用する場合の社会保険の取り扱いは…
 
Q:
 定年退職者を嘱託社員として再雇用したい。雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険の取扱いは、どのような点に注意したらよいでしょうか?(建設業)
 
<回答者> 社会保険労務士 山本礼子

A:
 年金改正により特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が、生年月日に応じて段階的に65歳へ引上げられ、これからは定年退職される方からの再雇用や勤務延長の要請が一層増えてくると思われます。
 ご質問の定年退職後に再雇用した場合の社会保険の取扱いは、再雇用する方の給与や勤務時間を決定する際にも、考慮すべき重要な事項です。
まず、労災保険の適用ですが、これは嘱託社員、アルバイト、パートなど名称や勤務形態が異なっても、すべての労働者について適用となりますので、正社員と同じように、業務災害や通勤災害の際に給付を受けることができます。労災保険は、各被保険者の取得や喪失の届出制度はないので、特に手続きはありません。
次に、雇用保険の適用ですが、雇用保険には2種類の被保険者区分があり、週所定労働時間が30時間以上の場合は一般被保険者、20時間以上30時間未満の場合は、短時間被保険者となります。嘱託契約を結ぶ際に、週所定労働時間が20時間以上30時間未満へ変更となった場合には、ハローワーク(公共職業安定所)で短時間被保険者への切替手続きが必要です。手続きには「区分変更届」に「資格喪失届(白紙)」と雇用契約書を添付します。週30時間以上の場合は、そのまま一般被保険者なので手続き不要です。
 また、雇用保険では60歳時点の給与の額を届出ることになっており、「60歳到達時賃金証明書・賃金月額証明書」「60歳到達時賃金日額登録届・高年齢雇用継続給付受給資格確認票」に、労働者名簿、出勤簿、賃金台帳、住民票等を添付してハローワークで手続きを行なってください。給与の額が、60歳時の給与よりも85%未満に低下した場合は、60歳以降65歳になるまで、「高年齢雇用継続給付」をご本人が受給することができます。ただし、5年以上雇用保険の被保険者であったことなど一定の要件があります。受給できる金額は、60歳以降に受ける各月の給与額に応じて支給率が変わりますが、64%未満に低下した場合は各月の給与額×25%が支給されます。また、在職老齢年金と併給する場合は、標準報酬月額(給与相当額)の約1割を限度に年金が支給停止となります。
 次に、健康保険と厚生年金保険の適用についてですが、嘱託社員の労働日数と時間が、通常の社員の4分の3以上である場合は、引き続き加入することができます。4分の3未満の短い時間・日数で勤務する場合は適用除外となります。適用除外の場合は、在職による年金額の調整はなく満額の年金が支給されます。
 健康保険と厚生年金保険に加入できる勤務時間で嘱託契約を結び、給与が改定される時は、定年退職時に一度資格喪失届を提出し、嘱託社員としての入社日で資格取得手続きを行なうことができます。給与が低下した場合、通常は、「報酬月額変更届」によって手続きを行なうので、給与が下がっても3ヵ月間は従前の標準報酬月額によって保険料が変更されず、在職老齢年金も低額なものとなってしまいますが、定年退職時に一度資格を喪失、再取得することにより、新給与をもとに、すぐに保険料が変更となり、在職老齢年金の計算にも反映されます。この場合「資格喪失届」「資格取得届」に、定年退職辞令、就業規則の定年条項等を添付して、社会保険事務所(健保組合)に提出を行います。給与が改定されない場合は手続き不要です。なお、健康保険は年齢制限がなく在職中ずっと加入できます。厚生年金保険は65歳で資格喪失(平成14年4月から70歳に改正)となります。
 在職老齢年金は年金額が減額されますが、年金額と給与額に応じて合計額が増える仕組みになっています。

提供:株式会社TKC(2001年6月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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